惹かれあって幻

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「すまん。もう、時間が来てしまったみたいだ。」 その一言で、俺は全てを理解した。 「――美來か?」 「……ああ。」 「美來じゃなくて、いいのか?」 「俺は確かに、二那の過去の意識で出来てるけど、二那自身ではないから。」 「そうか……」 美來じゃなくて、俺なんだ。 『もう、時間が来た』。大学生の頃の俺の意識が、ミナにようやく取り込まれたのだ。 大学生の俺は、恋愛感情で出来ていた。 ミナに、恋愛感情が取り込まれたのだ。 その相手は、美來じゃなくて、いちばん身近にいる、俺。 過去の俺が、今の俺に、恋愛感情を向けている。 ――ミナは、何を思っているんだろう。 普通なら、パストと本人は関わらない。だから、パストが恋愛感情を取り込んだところで、本人に恋愛感情を向けることは無い。 俺は、禁忌を犯してしまっているのだろう。パストが見えているというのは、そういうことだ。 パストだって、自我を持っている。身近な人に好意を寄せるのは、決して変なことでは無い。今回の場合、身近な人物が、俺しかいなかったというだけ。 「……気持ち悪いだろ。突っぱねてくれ。」 「いや……お前も苦しいだろ。今度は、俺が支える。」 そう俺が言うと、ミナは俺をもっと強く抱き締めてくる。前、ミナが言ったことが分かったような気がする。『顔に包帯をしているのは、二那がおかしくならないようにするため』。確かに、大学生の頃の俺の顔で抱きしめられていたら、俺はおかしくなっていただろう。ミナなりの気遣いに、今、気付かされた。 「……とりあえず、びしょびしょだから、風呂でも入らないか?服も、洗濯しよう。」 「……そうだな。」 そうして、ようやくミナが俺を放した。 ミナの顔は相変わらず見えないし、雨に濡れてるから分からないが、今、もしかしてミナは泣いているんじゃないか。そんな気がした。 それからの日々は、以前とすこし変わったところがある。 まず、ミナと俺は一緒に寝るようになった。俺は魘されたくないからミナが傍にいてくれた方が安心だし、ミナだって俺と居たいらしい。 次に、ミナがよく俺を抱きしめてくるようになった。夕食の後、一緒にコーヒーを飲んでる時なんかはよく抱きしめてくる。不思議な感じはするけど、別に嫌では無い。 あとは……ミナが前より頼もしくなった。いや、前から頼もしくはあるんだけど。なんて言うか……大人の男、って感じになった。やはり大学生の頃の意識が取り込まれたからか。 そんなこんなで、俺とミナの日常はあっという間に過ぎていった。
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