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 次に出会ったのは、もう12月だった。  高野さんはねずみ色のコートを羽織って、ブランド品みたいなマフラーをつけている。 「やあ!」  いつもの仕草で、いつもの挨拶をしてくれた。  今日も、いつものように別れていく。    新しいページにはたくさんの内容が書き込まれていた。それはもはや、しっかりとした手紙のようだった。 *─────────────────── 星野くんは、覚えていますでしょうか。 足の怪我をしたということなら、もしかしたらと思って。 私、きみに会っているかもしれません。  ...... ────────────────────  ......急に胸騒ぎがし出した。読む手を止めたいけれど、緊張のままページをめくる。 *─────────────────── 私には小さな妹がいました。 幼少の頃から大きな病気を抱えていて、ほとんどを病院のベッドで生活していたのです。 ある日、妹が私に教えてくれました。 「お兄ちゃんとお庭で会ったんだよ。お池を指さしてたら、"あれは鯉だよ"って教えてくれたの」 「お兄ちゃん?」 彼女が振り返って指さした姿が、きみなのかもって。  ...... ────────────────────  思い出した。それはたった一日の小さな出来事。  ・・・ 「......元気な子だね。でもはしゃいだら危ないからね」  ある初夏の日、病院の庭先で小さな女の子にぶつかった。たしかこうやって答えたんだ。  明るくていい子だから、ふと話し相手にいいなと思って少し散歩に付き合ってあげた。すると、池に夢中になった彼女があれはなあに、と指さしたんだ。 「あれはお魚だよ、鯉っていうんだよ」 「そうなんだね、わたしと同じ名前だ!」  そこで、彼女を呼ぶ声がしたから別れていった。  ・・・ *─────────────────── 妹の名前は、"こい"っていいます。 ────────────────────  思わず声を失った。手から落ちていく本は床にぶつかってページが閉じられていく。そして裏表紙が目に映った。  再び目にした"こい"という文字に疑問が浮かび上がる。  私のじゃない大切なものは、妹のもの。    この本は形見じゃないか。手に取って置きたいんじゃないか。  そんな大切なものになにを書かせていたんだろう。    彼女の真意を聞きたくなった。  ......次の水曜日はクリスマスだ。
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