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6.
薄暗い空の下、川沿いの道をふたり歩幅を合わせて歩く。
横を歩く高野さんをちらりと見ると、息を吐き出したところだった。白い吐息が躍っている。おそらく緊張を出し切ったのだろう。
「この本は、妹にあげたプレゼントなの。毎日することがなくて日記を書きたいって言ってね。だから私白紙だけの本を買ってハードカバーで製本してあげたんだ」
ああ、たしかに売られている本じゃなかった気がした。
「そしたら急に亡くなって、日記は一文字も書けずままだった」
悲しい話だ。もしかしたら僕と出会った直後なのかもしれない。
「そうだったんだ。......それで、どうしてこの本が本屋に売られていたの?」
「もちろん私が売ったからだよ。
お母さんは手に取って置きたいって思ってたけど、私は思い出ひとつも残したくなくてね。だから、故意に売った」
それが、今は僕の手元にある。ストーリーが巡りあって、僕たちは出会うことができた。
「それでもね、本をこうして見ることができるとやっぱり嬉しいんだ。ああ、運命なんだなって思って」
「運命、いい言葉だね」
僕の相づちに高野さんも頷く。
「妹が精一杯生きた証だから、今度はその気持ちを抱きしめてあげないといけないなって思ったの。それで文通しようかなって」
妹と遊んでくれてありがとう、ペンフレンドになってくれてありがとう。高野さんが頭を下げる。
もちろん僕も嬉しかった。
高野さんが足を止める。
「......あ、あのさ」
「うん」
彼女はこちらに上目遣いに見つめている。ビー玉みたいな瞳が揺れた。
「もっと続けても良いよね、文通」
一瞬真顔になって、笑い出してしまった。まさかこちらが笑うことになるとは。
「もちろんだよ!」
雪がちらつき始めた。それはふたりの仲が深まった祝福なのかもしれない。
・・・
文通を本でやっている人なんていないだろう。それでも、ふたりの関係なんだから。
僕たちは夢中でページに文字を書いていった。
たまに前のページにさかのぼって、思い出が溢れているのを実感する。
最後のページに書かれたのは、たった一言だけ。
"好きだよ"
(おわり)
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