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「俺の父親は海が好きだった。仕事も海に関するものだった。
仕事柄休みは少なかったが、よく『海でする仕事は楽しい』と言っていた」
小さく笑い、続ける。
「ヨットを持っていて、休みの日には必ずと言っていいほど家族を乗せて海に出た。
2人の母親も当時から仲が良く、都合がつけば一緒に行っていた。
そこでは釣りをしたり、ただのんびりしたりした。
この広大な海にぽっかりと浮かぶ小さなヨットの上は、家族だけしかいない空間だ。俺はその特別な感じが好きだった」
凪は何かを思い出すように、水平線の遥か彼方を見た。
「俺が高校1年の頃だ。
その日は波が高かった。父親は経験上今日は大丈夫だと言って1人で海に出た。
だがそのまま帰っては来なかった。高波に攫われたんだ。
後日ボロボロになったヨットだけが帰ってきた」
ー・・えっ。
「海が好きすぎるあまり海と心中するなんてな。父親にとっては本望だったのかも知れない」
こういう時に何と言えばいいのかわからず、次の言葉を待つ。
普段と同じトーンで話す凪は、もう割り切っているのかも知れなかった。
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