チュートリアル♥

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いくら 『自分が作ったキャラが待ち構えているだけ』 とわかっていても、さすがに話を聞けば聞くほど 少し怖くなってきた。それでも、 一緒に行く!と意気込んでいる姫美ちゃんを 巻き込むわけにもいけない。 いっそ、事前知識なしに屋上行った方が よかったのではないかと思うほどった。 ノア、また余計なことをしでかして…。 「だーいじょうぶだよ!  たまにしか番長さん学校にいないんでしょ?  もし居たら、ランチクロスは諦めるし、安心して。」 …まあ。屋上にいることは 確定演出なんですけどね。 心配してくれている姫美ちゃんをなんとか説得させて、 一緒に下駄箱へに行ったあと、 私だけ屋上に向かおうと、姫美ちゃんに軽く手を振って お互い逆方向の廊下を歩こうとする。 すると、姫美ちゃんに呼び止められる。 「白!一応お守り持って行って!」 そう言って握らされたのは何かのキーホルダーだった。 なんぞよ、と手を開くと、 「うええぇぇぇ!???  の、ノアじゃん!?」 シルクハットに燕尾服。 ネクタイの代わりに燕尾服には不釣り合いの赤いリボン。 それは紛れもなく、ちょっと見慣れてきた ノアのフィギュアキーホルダーだった。 「き、姫美ちゃ…??なぜ、ノアを…」 「これ、シルクハット外すと、  ちょっと強めの電流流れるボタン出るから!  もし何かあったら、ビリッとやっちゃって!」 そう言うと、姫美ちゃんは親指を立てて見せた。 思いがけない”お守り”に眉がピクリとけいれんしたが、 私もゆっくりと親指を立てて見せる。 急いで教室に戻る姫美ちゃんの背中を見送ると、 私の手の中でにんまり笑いながら 両手でハート型作るポージングのノアを、 しかめっ面で見直した。 階段で屋上まで行くのはかなり体力がいる。 立ち入り禁止の立て札の前で少し荒くなった息を整え、 忌々しい表情のお守りをぐっと握りしめて気合を入れた。 1度も来たことのない場所だから緊張するけど、 今までと違って”攻略対象がいる”とわかっていて 乗り込むこと自体が、より緊張を増幅させる。 そしてそこに、”番長の噂”もかねているせいで、 手に取ったドアノブがものすごく重たく感じた。 ガタンと鈍い音を立ててドアノブが回ってドアが開く。 私の気持ちとは裏腹に、綺麗な青空が私を出迎えた。 もともと屋上は立ち入り禁止だし、来る気すらもないから、 来たことはなかったけど、まさか本当に鍵が開いているなんて。 するりとドアの隙間から入ると、 背後から入ってきた時と同じ音がして、 ドアが閉まったことが嫌でもわかった。 屋上は何もなくて、ただ、 私の身長よりも遥かに高いフェンスで囲まれていた。 「と。とりあえず、ランチクロスを…」 とはいっても、一見、どこにも布らしきものはない。 後ろを振り返ると、ドアのある部分の上に貯水タンクが見えた。 まさか貯水タンクの方にひっかかってるとか…。 ドアがある方から壁沿いにくるりと回ると、 壁に梯子があることに気が付く。 少し顔を青ざめた。 正直高いところはあまり得意ではない。 学校の校舎自体が近辺の建物よりも高く作られているため、 見渡すと、小さくなった民家が並んでいる。 のに、それよりもっと高いところへ行けというのか。 少しクラッと目の前が歪むのを、頭を左右に振って紛らわす。 気構えてたわりに、人気も無いし、 早く見つけて帰ろう。 一歩一歩、丁寧にはしごを上る。 一幅がわりと大きくて、自然と腕に力が入る。 何とか昇り終えると不思議なことに、 直射日光が当たる屋上のはずなのに、 大きな影が私を出迎えた。
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