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「わあ、ビックリした~!大丈夫だった~?」
スカートを抑えつつも、乱れる髪を抑える姫美ちゃん。
一方私は、スカートの中に体操着のハーフパンツを
仕込み履いているので、特に気にすることもなく。
髪も少し長いボブ程度なので、そこまで乱れることもなく。
バサバサと暴れ体操着丸出しの状態で、
空を見上げている私を見た姫美ちゃんが、
ランチクロスがないことに気づく。
「あ、白の、飛んで行っちゃったんだね!?」
花壇の花達の花びらが、先ほどの豪風のせいで少し舞い上がる。
その花びらが屋上を見上げる姫美ちゃんを、
よりきらびやかに演出しているようだった。
「いやもう。少女漫画の扉絵じゃぁ~ん。」
「え~?なに~??トンビ~?」
花吹雪の姫美ちゃんが尊いなと感謝しつつ、
私は慣れた手つきでスカートから携帯を出し、
ロックを解除してピンクのアイコンをタップする。
その瞬間、弱まりつつある風と、
天使のような姫美ちゃんの周りの花びらが
徐々にスローモーションへ変わる。
…で?今度は何のイベントっすか。
【 わあ♥さすがの僕も引いちゃうくらい、ドスのきいた声~♥ 】
わざとらしく両手を顔の横に広げて
典型的なビックリしました、のポーズをとる
自称・恋の道化師。
何もかもわかっているくせに、わざとらしく演技する。
【 あ♥ そういえば、2人目と3人目の攻略対象にも、無事に出会うことができたみたいだね!おめでとう♥ドッキドキの恋の予感だね♥ 】
ただでさえハートまみれのメッセージウィンドウなのに、
ノアは綺麗なハート型を両手で作って見せる。
そんな1人で楽しそうなノアを、
死んだ魚のような目で見つめる。
いや、そうじゃなくて。
私のランチクロス飛ばしたの、ノアでしょ?
わかってんだぞ、おい。
【 ええ~?♥ 何の話かな~?♥ けど、早く取りに行かないといけないんじゃなあい?♥ 】
イベントについてはあくまでもシラを切るようだ。
口角をくいっと上にあげて、
私の反応を楽しんでいるかのように見える。
その様子を見て、真相へのあきらめと深いため息をついた。
じゃあさ。攻略対象っていうのはあと何人いるの?
昨日の出来事なのに、設定したキャラのこと
全然覚えてないんだよね。
【 うん♥僕が記憶を消したからね!♥ 】
無言でノアのチビキャラを、強めに連打した。
【 痛くないけど痛いよ~!!!♥やめて~!!♥ 】
両親だけじゃなくて私の脳もいじったの!??
だから何もかも覚えてなかったのか!!!
はーらぁーたーつぅ!!
なんとかして、ヒロイン特権として
実際にこのピエロ、ぼっこぼこに殴れないかなぁ!?
【 心の声全て、僕に聞こえてる事、忘れていらっしゃるのかな?♥】
私が連打をやめると、やれやれといったポーズをして、
にんまり口角に戻る。
【 だって♥キャラのこと覚えていたら、せっかくの出会いイベントが台無しでしょ~?♥覚えてないからこそ今みたいに、あと何人だろう♥、どこにいるんだろう♥ ってなるんだし~?♥ 】
それはそうだけど……
私の心臓がすでに持たないというか…。
【 ほらねぇ~♥効果抜群でしょぉ~?♥ドッキドキしちゃうでしょ~♥ 】
むかつくぅ。
……けど正直、自分が作ったイケメンだから、
みんな、どストライクのキャラと顔面で困るんだよなあ。
【 あはは♥シロちゃんかんわいぃ~♥その調子でリアル恋愛シミュレーションを楽しめばいいのさ♥……そうだなぁ♥こんなに可愛いシロちゃん見られたお礼として、1つだけヒントをあげよう♥ 】
顔が赤いことを隠すように片手で顔を抑え、
ノアの楽しそうな顔をグッと睨みをきかせ見つめる。
それでもなお、ノアは満足そうにフフフと嬉しそうに笑った。
【 姫美ちゃんのキーワードには、情報屋ってワードがあったよね?♥それをうまく有効活用してみて♥例えば……この学園の屋上について、とかね♥】
……屋上?
ああ!やっぱりランチクロスは
ノアの仕業ってことじゃん!
私の頭に怒りの角が生えたことを見て、
ノアは慌てて、じゃあ頑張ってね~♥と
手をヒラヒラさせつつ、メッセージウィンドウの×ボタンを
自分で押して、ウィンドウを消すとアプリも落ちた。
虚しく他のアプリが並ぶ、ホーム画面に戻る。
あの道化師…また逃げたな…。
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