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佐恵子……どうして佐恵子が!?
俺は焦りを隠せないまま、大通りに出てタクシーを拾った。
街の大学病院まで向かってもらう。
脳内では、電話で聞いた警察官の男の野太い声がリピートされていた。
『奥様が……通り魔に襲われました。今緊急手術をしています』
通り魔……だって?
どうして佐恵子が、そんな被害に?
嫌でも呼吸が荒くなる。
「二千五百円です」
こちらの状況など知る由もないタクシー運転手に、俺は財布から千円札を三枚取り出した。
「おつりは結構です!」
普段だったらこんな発言はしないのに……今回はそんなことどうでも良かった。
一刻も早く、佐恵子のもとに。
「……工藤佐恵子さんでしたら、今は集中治療室におります。まだ予断を許さない状況です」
「集中治療室はどちらに!?」
「こちらを真っ直ぐ行ってください」
俺は早歩きになって、佐恵子が集中管理を受けている部屋に向かった。
集中治療室の前にある長椅子には、刑事さんらしき渋めの男が座っている。
「あ、あの、佐恵子は!?」
「工藤宏利さんですね?」
「はい! 佐恵子の容態は!?」
「何とも……手術は一応上手くいったみたいですが……いつ容態が急変してもおかしくない状況にあるとのことです」
「そ、そんな……」
とにかく、佐恵子の手を握りたい。
扉を開けようとした俺の手を、刑事さんが掴む。
「宏利さん……一つ言わなければいけないことが」
心臓がドキリと波打つ。
手首に感じる刑事さんの握力が、とてつもなく重く感じた。
「何ですか?」
刑事さんは一つ咳払いをして、俺の手を離す。
鋭い視線がこちらに向けられた。
「奥様の財布から、キャッシュカードだけが抜かれていると思われます。ATMを出たところを襲われたみたいなのに、キャッシュカードだけ見当たりません」
「そ、そうですか……」
何だ、そんなことか……密かにホッとしている自分がいた。
俺が泥棒だとは、バレていない……。
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