おこづかい制の泥棒

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 妻の佐恵子(さえこ)が隣で寝ているダブルベッドから、俺はゆっくりと体を起こした。  衣裳部屋に行き、全身黒のウインドブレーカーに着替える。  着替え終わったら、もう一度寝室に顔を出して、佐恵子のいびきが止まっていないか確認する。  ……大丈夫、ぐっすり眠っている。  深夜の二時。こっそりと家を抜け出し、高校時代からの友人である朋貴(ともき)が待つ、丸五橋(まるごばし)まで走って向かった。  何せ小さな街だ。朋貴の家も、俺の家からそう遠くはない。  二人の家のちょうど真ん中地点が、丸五橋になる。  秋の夜風は暑過ぎず冷た過ぎず、ちょうど良く俺の頬を撫でてくれて……走りながらも心地良さを感じていた。 「おう、宏利(ひろとし)。今週もやってきたな」 「朋貴、今日もよろしくな」  朋貴は橋の下を流れる大きくて広い川を眺めていた。  俺を見つけるとすぐに、ニカッと白い歯を見せながら名前を呼んだ。  色黒で茶髪。そして耳にはピアス……朋貴はとても四十歳には見えないほど、イケイケな見た目をしている。  朋貴とは高校からの付き合いだから、ザッと二十四年の付き合いになるのか。 「朋貴、今日のターゲットはどこなんだ?」 「今日は隣町の布団屋だ。ここも高齢の夫婦がやってるみたいだから、楽勝だろう」 「了解」  二人で走って隣町まで向かう。大体二十分くらいあれば、途中で歩いたとしても着くだろう。  毎週金曜日。俺は決まって朋貴と……この街で盗みを働きに出るのだ。 「それにしても宏利よ……大学の教授が盗みなんかしちゃっていいのか?」 「まだ准教授だよ。それに、金が必要だから」 「そんなに稼ぎが悪いのか?」 「そうじゃないよ……俺おこづかい制だから……決まった額しかもらえないんだ」  ジョギングのように走る中、朋貴は首を傾げた。  俺の発言を理解していないみたいだ。  そういえば朋貴にまだ、具体的に説明していなかった。  ……俺が金を集めている理由を。
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