おこづかい制の泥棒

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「ふぅー、今日も楽勝だったな。はい、二万」 「悪いな、朋貴。俺何もしてないのに」 「バカ、見張りも大事な役割だよ」  朋貴は犯罪者とは思えないほど、昔から良いやつだった。  細かいところまで気を配れるから、この泥棒行為も上手くやっていけるのだ。 「じゃあ、また来週な。その生徒さん、報われればいいな」 「ありがとう朋貴。また来週、丸五橋で」  朋貴はパーカーのフードを深く被り、颯爽と走り去っていった。  俺は夜空を見上げながら、ゆっくりと歩いて帰ることにする。 「今日も上手くいって良かった……」  ……朋貴とだったら、絶対にバレることはない。  俺たちには、泥棒行為をする上で決めていることがある。  それは、高齢者が経営している個人店に忍び込み、四万ほどしか盗まないという作戦だ。  高齢で、尚且つ四万という少額が、事件性を薄れさせるのだ。 「……樹里亜、待ってろよ」  早くこの二万を、樹里亜に渡したい。  土日は授業がないから、渡せるのは月曜日だ。  月曜日まで待ち遠しい……。  その後の土日は、家族サービスをしなければならない。とはいっても夫婦二人で、子供はいない。  佐恵子は俺の悪事に、気づいている素振りも見せなかった。  買い物して外食して、いつもの週末を過ごす。  頭の中は、樹里亜でいっぱいだった。    ――そしてようやく月曜日。  授業終わりに、樹里亜を研究室に呼び出す。  そして、二万円が入った封筒を渡した。 「准教授……いいんですか? いつもこんな大金……」 「たかが二万じゃないか。弟さんを救うためだ……少ないが足しにしてくれ」 「ありがとうございます……」  あれ……いつもの嬉しそうな笑みが見られない。どちらかというと、浮かない顔をしている。  思わず「どうした?」と聞いてしまった。
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