おこづかい制の泥棒

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「へぇー、三十万なんて、そりゃまた大金だな」  いつもの丸五橋。金曜日の深夜二時。  朋貴は股関節の硬さを緩めるようにストレッチしながら、俺の話を聞いてくれていた。 「どうしたらいいのか……」 「おこづかい制の泥棒にはどうしようもない話だな」 「ああ。でも、助けてあげたくてさ……」 「どこまでお人好しなんだ、宏利は」  朋貴はふふっと笑うと、今度は屈伸を始めた。  盗みに行く前の準備運動。今日はいつもよりも入念にしている気がする。  この感じだと、朋貴もさすがに三十万を集めるのは難しいと考えているみたいだ。  俺の口から、思わず弱音が出る。 「やっぱ難しいよなぁ……」 「うーん……もう嫁さんに相談しちゃえば?」 「何て?」 「適当にさ、仕事の接待で立て替えなきゃいけなくなるから、三十万貸して……とか?」 「そんな大金立て替えることなんてあるか? 一発で疑われるよ」 「内容はどうあれ、嘘ついて貸してもらえばいいだろ」  いや、佐恵子の力だけは借りてはいけない。  もしバレてしまったら、樹里亜への下心も丸裸にされてしまうだろう。  佐恵子に殺されてしまう……それだけはできないと、強く首を横に振った。 「……宏利の嫁さんって、鬼嫁ってやつ?」 「いや……そうじゃないけど……」 「今は嫁さんいないんだから、ビビんなくていいよ」  朋貴は俺のリアクションを見て、苦笑している。  佐恵子を怒らせたら……ご飯は作ってくれなくなるし、下手したら一週間くらい口も利いてくれない。  家庭はなるべく平穏でいたいものだ。とにかく波風を立たせたくない。  俺は朋貴の言葉に、何も言い返せなかった。 「ま、とりあえず行くか。今日は五丁目の理髪店だ」  結局三十万を手に入れる解決策は思いつかなかった。  それは後々考えるとして、今日もしっかり盗みにいかないと。  樹里亜に少しでも多く援助するために、毎週のこの時間だけは確実にこなさないといけない。  二人並んでジョギングしながら、ターゲットの理髪店まで向かった。
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