おこづかい制の泥棒

6/10
前へ
/10ページ
次へ
「よし、今日のターゲットはここか」  朋貴が指差した理髪店は、住宅街にひっそりと佇む、昭和から数十年続いているであろう古い店だった。  地域のみんなに愛されて、ここまでやってきた感が満載だ。  古民家の一階を店にして、二階が自宅……なのか?  きっとこの造りはそうだろう。看板も傷んでいて、ぼんやりとしか店名が見えない。 「じゃあいつものように、やるぞ」  朋貴が先にピッキングして、中に入る。  今回も流れはスムーズ。俺は後ろからのそっとついていった。 「あった……」  微かな声で朋貴が呟く。おそらくレジを見つけたのだろう。  レジの鍵も恐ろしいほど静かに開錠した。  俺はいつものように、誰か来る気配がしないかに注力する。 「……おっ」  朋貴が何やら喋った。俺は周りに注意を払うのに神経を使っていたので、それどころではない。  朋貴の手つきがよりスピーディーになったかと思うと、俺の背中を叩いてきた。  朋貴の方を見ると、サムズアップをしながら外に出ようと目で合図された。  良かった……もう終わったみたいだ。  何事もなかったように店を出て、走って遠くの公園まで移動する。  今日も秋風が心地良い。  俺は公園のベンチで、浅かった呼吸を正常に戻すように深呼吸を始めた。 「どうして宏利が疲れてんだよ」 「あぁ、すまん。今日は何だか緊張しちゃって」 「まあいいけどよ。はい、これ」  いつものように二万円を渡してきた。  労力の対価に見合っていないのを自覚しながらも、両手でしっかり受け取る。  朋貴はニヤニヤさせながら「もう一個、プレゼント」と言った。 「プレゼント?」 「ああ。はい、これ」  追加で俺の手に渡ったのは、一万円札の束だった。  何枚あるんだ、この札束……。  口をあんぐりさせながら、朋貴を見る。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加