おこづかい制の泥棒

7/10
前へ
/10ページ
次へ
「驚いただろ? 今回のレジには、結構な額が入っていたんだ。それ、ザッと三十万くらいだろ?」 「ま、まじか……え、えーと……」  全部で、ちょうど三十万……まさかこんな大金が手中にあるなんて。  これを俺に渡してくれたってことは……。 「宏利に全部やるよ」 「ええっ!?」 「必要なんだろ? お前の大事な生徒さんのために」 「いいのか?」 「遠慮すんな。黙って受け取ってくれ」 「……朋貴」  涙で目の前が霞んで見えてきた。  深く頭を下げて礼を言う。  朋貴は「俺、良い犯罪者だろ?」と言って、ニカッと笑った。  手の甲で目元の水分を拭いながら、ゆっくり頷く。  朋貴とは、一生の付き合いでありたい。  心からそう思った……。  ――その夜は、久しぶりにぐっすりと眠れた。  佐恵子が寝ているベッドに、気づかれないように戻って、目を瞑るとすぐに眠りの世界にいけた。  佐恵子は、一度眠るとなかなか起きない体質だ。  それが心から助かっている。  まあ、もし夜に出歩いていることを咎められたとしても、眠れないから走ってきたとかなんとか言えば、誤魔化せるとは思うけど。    そして次の日の土曜日。授業はなかった。  俺は研究室に資料の整理に来ていた。  目的はもう一つ。研究室にある鍵のかかったデスクに、三十万の入った封筒をしまうため。  家に置いておくと、いつ佐恵子に見つかるかわからない。  なるべく家の外に置いておきたかった。  この封筒は、月曜日に樹里亜に渡す予定だ。 「これでバッチリだ」  そう独り言ちた後に、スマホの着信音が研究室内に響いた。  知らない電話番号からだ。 「も、もしもし」 『工藤(くどう)宏利さんでお間違えないですか?』 「え、は、はい……そうですが」  僅か二秒……間が空いた後に、向こうは自らの立場を明かした。 『警察です』  ……はい?
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加