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「驚いただろ? 今回のレジには、結構な額が入っていたんだ。それ、ザッと三十万くらいだろ?」
「ま、まじか……え、えーと……」
全部で、ちょうど三十万……まさかこんな大金が手中にあるなんて。
これを俺に渡してくれたってことは……。
「宏利に全部やるよ」
「ええっ!?」
「必要なんだろ? お前の大事な生徒さんのために」
「いいのか?」
「遠慮すんな。黙って受け取ってくれ」
「……朋貴」
涙で目の前が霞んで見えてきた。
深く頭を下げて礼を言う。
朋貴は「俺、良い犯罪者だろ?」と言って、ニカッと笑った。
手の甲で目元の水分を拭いながら、ゆっくり頷く。
朋貴とは、一生の付き合いでありたい。
心からそう思った……。
――その夜は、久しぶりにぐっすりと眠れた。
佐恵子が寝ているベッドに、気づかれないように戻って、目を瞑るとすぐに眠りの世界にいけた。
佐恵子は、一度眠るとなかなか起きない体質だ。
それが心から助かっている。
まあ、もし夜に出歩いていることを咎められたとしても、眠れないから走ってきたとかなんとか言えば、誤魔化せるとは思うけど。
そして次の日の土曜日。授業はなかった。
俺は研究室に資料の整理に来ていた。
目的はもう一つ。研究室にある鍵のかかったデスクに、三十万の入った封筒をしまうため。
家に置いておくと、いつ佐恵子に見つかるかわからない。
なるべく家の外に置いておきたかった。
この封筒は、月曜日に樹里亜に渡す予定だ。
「これでバッチリだ」
そう独り言ちた後に、スマホの着信音が研究室内に響いた。
知らない電話番号からだ。
「も、もしもし」
『工藤宏利さんでお間違えないですか?』
「え、は、はい……そうですが」
僅か二秒……間が空いた後に、向こうは自らの立場を明かした。
『警察です』
……はい?
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