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1.未経験歓迎
ピー、ピー、ピーとATMから吐き出された通帳の残高を見て、羽村葵は青ざめた。栗色のさらりと長い髪が肩から零れ落ちる。柔らかな瞳は泣きそうに潤んでいた。
大変……このままではトイレの水も流せなくなるかもしれない。
こんな事態になるなんて、一ヶ月前には想像も出来なかった。
「葵ちゃん、結婚してほしい」
一年半付き合った元カレにプロポーズされたのが七ヶ月前だ。
「葵ちゃんには苦労させたくない。仕事も辞めてほしいんだ。大丈夫、幸せにする」と言われた。
そう言って、元カレは葵のためにマンションを用意してくれた。
会社を経営している親がポン、と買ってくれたらしい。
元カレとは葵が勤めていたデパートで出会った。当時葵は国産化粧品会社の美容部員だったのだ。
元カレはデパートの取引先の会社のオーナーの息子で、営業でデパートを訪れた際、何度か葵を見かけたのだという。
そしてある日、葵がバックヤードでエレベーター待ちをしていた時に声をかけられたのだ。
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