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名門高校・習志野
「ここが習志野・・・・・。」
咲良は思わず呟いた。
「遂に来たね・・・・・・。」
不破も考え深げである。今日は待ちに待った千葉の名門・習志野高等学校との練習試合。習志野は去年の夏の大会の覇者。我が聖ミカエル青春学園がどの辺りのレベルにあるかを確認する為の重要な試合。皆、気合を入れて乗り込んで来たのです。
「遠いですよ。バスを貸し切れば良いじゃないですか。」
早速、愛菜が不満を口にした。
「そんなお金何処にあるの。甲子園に行くんだから、今からお金を切り詰めないと駄目でしょ。」
咲良はやんわりと愛菜を窘めた。
「それじゃあ、習志野の野球部をミカエルに呼べば良いんですよ。なんで愛菜がこんな辺鄙な所まで来ないといけないんですか。」
「相変わらず芦田は不満ばかりだな。習志野とうちとでは格が違う。向こうがわざわざこちらに出向いてまで試合をするメリットがまるで無い。今回、うちとの練習試合を受けてくれただけでも、こちらにとって望外の沙汰だ。」
蛭田の言う通りであった。まさか習志野が万年一回戦敗退の高校の練習試合を受けてくれるとは。今日は来れなかった、さしこ先生の辣腕ぶりに感謝しかなかった。
「習志野に練習試合を受けて貰えるんなら、ここまで来るぐらい何てこと無いわ。そうでしょ?」
咲良は皆に同意を求める。
「そうだね。習志野まで出向くのは、試合を受けてくれた事に対して、礼を尽くす事にもなるんだ。」
不破は愛菜に対して聞かせた。
「それにしても名門校は何というか、雰囲気があるよな。ちょっと飲まれちまうよ。」
「どこに雰囲気があるんすか?」
「越前、お前感じないのかよ。この学校の佇まいというか、歴史を。新興校のミカエルとは違うだろうが。」
「ただ古いだけっすよ。桃先輩は習志野に飲まれてるんじゃないですか。」
越前は事も無げに言った。相も変わらず強気である。
「飲まれてるって・・・・・。普通飲まれるだろうが。相手は習志野だぞ。千葉の強豪だぞ。」
「千葉では強豪でも、全国では優勝した事ないんでしょ。所詮、地方レベルじゃないですか。」
「お前・・・・・阿保なのか?俺達はその地方レベルの最下層にいるんだぞ。」
「この前までは最下層だったんだろうけど、俺が入部した今は違います。」
「・・・・・。凄いな、お前。何処からその自信は来るんだよ。」
咲良が手塚の顔を見ると、笑みを浮かべていた。釣られて咲良も笑ってしまう。皆の前に笑いの伝播が拡がった。そこで手塚が締めの一言を述べた。
「相手が強豪校であろうと同じ高校生であることは変わらない。呑まれない事だ。小さい頃から千葉に住んでいる者たちには習志野に畏敬の念があるかも知れないが、試合をする時はそれを捨てろ。畏れ敬っていては、彼らを越える事は出来ない。我々の目指す高みは習志野の先にある。」
「習志野の先?」
蛭田が怪訝な表情を見せたので、咲良は補足した。
「私たちの目標は習志野の遥か先、大阪藤蔭でしょ。」
「・・・・・・・。」
皆、一様に沈黙した。
「何?何よみんな、甲子園に行ったら習志野以上がわんさといるの。ここで委縮してる様じゃ、話にならないよ。」
咲良の発破に越前が乗っかる。
「たかが習志野にビビらないで下さい。勝ちましょう。」
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