青学違い

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青学違い

「あの~~~。青学の皆さんですか?」  咲良はビクッと後ろを振り返る。いつの間にか背後で、背の小さい男がこちらを窺っている。 「あっ、はい。青学野球部です。」 「・・・・・・。あなたは?」 「マネージャーの宮脇です。今日は宜しくお願いします。」 「あれ、マネージャー変わったの?」 「はい。去年からマネージャーになりました。」 「・・・・・・・。」 「・・・・・・・。」  なんだ、この男?目の前に現れた男は不信感の様なモノを露わにして、咲良たち青学野球部をジロジロと眺めまわした。 「あの、あなたは習志野の野球部の方ですか?」 「ええ、マネージャーですが。林です。」 「あっ、マネージャーさん?男の方がマネージャーなんですね。」 「・・・・・・・。」  男は何も答えない。無遠慮に咲良の顔をジロジロと見つめてくる。咲良は感じの悪い男だなあと思った。 「・・・・・・・。なんか、いつもとメンバーが違うみたいなんだけど・・・・。三上君は?」 「えっ、誰ですか?」 「ピッチャーの三上君来てないの?」  なんだ?ピッチャーの三上君って誰だ?青学のピッチャーは越前である。手塚君もいずれ投げてくれるだろうが。そもそも部員に三上何て部員はいない。一体、何を言ってるんだろうか? 「三上って誰?青学のエースは越前君。誰と勘違いしているの。」 「・・・・・・・。」  愛菜が横から口を挟んだので、林という習志野のマネージャーは閉口した。 「ちょ、ちょっと愛菜ちゃん。失礼でしょ。最近マネージャーになった子でして・・・・。済みません。」  咲良は愛菜のタメ口を詫びた。 「ちょっと、オタクら何処の高校だよ。青学じゃないだろ!」  林が急に口調を荒げたので、咲良はビックリした。 「あの・・・・どういう事でしょうか?私たちは間違いなく青学の野球部です。」 「嘘つけ!うちは何度も青邦高校と試合をしてるから顔なじみなんだ。マネージャーも選手も知らない奴らばかりじゃねえか。お前ら、いったい何者だ!」 「せ、青邦高校?」  青邦高校。県内の強豪校である。去年の夏の大会ではベスト8にまで残ったのを咲良は記憶していた。 「馬鹿ですね。うちは青邦じゃなくて、ミカエルですよ。」  また、愛菜が無礼な口を叩く。 「はっ?・・・・。なんだって、何処の高校だって?」 「あの、済みません。うちは「聖ミカエル青春学園」という高校です。」 「はあ~~~~~~。」  林は大仰に天を仰いだ。なんだか雲行きが怪しくなってきた。 「オタクら、県外の高校なの?そのミカエルなんたらって?」 「県内です。」 「県内にそんな高校ないでしょ!」 「いや、間違いなくあります。」 「何、今年できた高校なの?去年の大会に出て無かったよね?」 「出ました。他校との連合チームで。」  咲良は小さい声で言った。 「はっ!連合チーム?話にならない。」  林は吐き捨てるように言った。ムッとする咲良。 「別に連合チームだって良いじゃないですか。何が悪いんですか?」 「あのねえ。うちは大会に連合で出るチームが練習で試合をする様なチームじゃないの。試合を受けたのは、あんたらが青学って言ったからで、はっきり言って詐欺だよ。」  つまりこういう事だ。さしこ先生が習志野に練習試合を申し込んだ時に、こちらを青学と言って申し込んだらしい。向こうは聖ミカエル青春学園を青邦だと誤認していたと・・・・・。どうりで習志野が試合を受けてくれた筈だ。さしこ先生の交渉力の賜物だとばかり思っていたのだが、さしこはとんでもないペテン師である。だが、わざわざここまで出向いて手ぶらで帰る訳には行かなかった。何とか試合をして貰わなくては。 「あの、済みません。事情は分かりました。つまりそちらは、我々を青邦だと誤認していた訳ですよね。」 「誤認していたんじゃなくて、そちらが故意にそう仕向けたんじゃねえかよ。」 「・・・・・・。いや、こちらも詳しい事情は分からないんですが、うちは試合をするつもりで来たんです。誤解させたのは謝ります。改めて試合をさせて貰えませんか。」  咲良は丁重に頼み込んだのだが、 「なんでだよ!なんでそうなるの。オタクらの様な詐欺集団と試合をしても、こちらには何の意味もないの。早く帰れよ。」  林は粗い口調である。咲良が困っていると、手塚が口を挟んだ。 「そこを何とかお願いできませんか。」 「何?誰だよ。」 「野球部部長の手塚と言います。そちらも練習試合をするお積りだったのでしょう。今からでは代わりの相手を見つける事は出来ない筈、お互いに試合をする事にメリットがあるのではないですか。」  手塚は穏やかに話したのだが、 「お互いメリットなんてないでしょう。オタクと戦ってもこちらは何も得るものは無い訳だし、そちらも100点取られて夏の大会前に部員が逃げ出したら困るんじゃないですか。そんな事も分からないの。あなた知恵遅れ?」  手塚を知恵遅れ呼ばわりされ、咲良は激高した。 「このウスラトンカチ。あなた何様のつもりなの。偉そうに。大体、そっちだって確認を怠った責任があるでしょうが。青春学園を青学って言って何が悪いの。手塚君に謝りなさい!」  指を差して喰ってかかる咲良をミカエルの野球部員が押し止める。 「馬鹿野郎!お前らが謝罪しろ。三流野球部が場違いなんだよ。そんなに試合がしたければ、近くの小学校でリトルリーグと試合しろ。まあ、それでも負けるだろうがね。」  
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