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変則6イニング制
「ただし、相手をするのはうちの2軍です。6イニングまで。1イニングごとに終わった時点で7点差が付いたらコールドです。」
「・・・・・・・。」
咲良は沈黙した。習志野まで来て、試合するのが2軍とは・・・・・。しかも6イニングまでとは。1イニング終わるごとに7点差が付いていたら試合終了だという。これで久里の考えはだいたい読める。ミカエルには2軍で充分。とっとと終わらせて追い返そうという腹積りなのだ。
「それで結構ですが・・・・・。1イニング終わるごとに7点差が付いたらコールドというのは、考え直して貰えないですか。」
咲良の申し出に、性悪な林が口を挟む。
「コールドなしで6イニングもやったら、100点差が付いても、試合を続けなくちゃならないだろうが。馬鹿げてる。」
「・・・・・・・。誤解しないで下さい。こちらが7点差を付けられたらコールドで結構です。ただし、そちらが7点差以上で負けている場合は、試合を最後まで付き合って貰いたいです。」
「はっ、馬鹿じゃねえの。」
「林、口を慎め。」
久里は口の悪い林を叱ると、まじまじと咲良の顔を見た。
「良いんじゃないですか。それで。」
久里の隣の男が笑みを浮かべて言った。咲良の顔は真剣だった。放言を吐いている様には見えない。それなりに自信があるという事なのだろう。久里は面白いと思った。
「良いでしょう。では、その条件で。」
「有難う御座います。」
「小川、ミカエルの皆さんをグラウンドに案内してくれ。」
「どうぞ、こちらへ。」
小川と呼ばれた男は、咲良たちを先導してグラウンドに向かった。
「良いんですか。あんな奴らと試合だなんて・・・。」
林が久里に問う。
「手違いとはいえ、もう、ここまで来てしまったんだ。お前みたいに頭ごなしに帰れと言うのは非礼だ。力の差を見せてやれば、納得するさ。」
「・・・・・。久里さんも、結構残酷ですね。」
「何故だ。」
「うちと互角にやりあえると思っているのに、2軍にボロ負けしたら、野球辞めてしまいますよ。」
「その時は、相手がそこまでの器だったという事だ。」
「はははは。そうですね。」
ミカエル一行は小川に案内され、グラウンドに向かう。
「なんですか!なんで2軍と試合なんですか?皆に相談も無く、勝手に決めて!」
愛菜は勝手に2軍との試合を決めた咲良を詰った。
「ゴメン、皆。勝手に決めて。でも、習志野の2軍は普通の高校の1軍より強いよ。やる意味あると思うの。」
「俺も同じ考えだ。気にしなくて良い。」
咲良は手塚の賛同を得られてホッとした。
「よく試合に漕ぎつけたよ。僕たちには実績が無い。追い返されても文句は言えなかったんだから。」
不破も咲良の判断を褒めた。
「まあ、うちの力からすれば、習志野の2軍でも手に余る。妥当な相手だ。」
黒田はいつも通り、冷静に戦力を比較した。
「いや、ここへは千葉県のレベルを図るつもりで来た。なんとしても1軍と試合をしなければ意味が無い。」
一同、手塚の言葉にビックリした。
「でも、1軍は試合してくれないって・・・・・。」
「曳釣り出すんです。」
手塚は石井会長にピシャリと言う。」
「曳釣り出すって?」
「向こうはミカエルと試合をする価値が無いと思っています。ですから、向こうの2軍に出来る限りの点差を付けて、圧倒するんです。こちらの価値を認めさせれば、向こうは試合をしても良いなと思う筈です。その為に、宮脇マネージャーがこちらが大差で圧倒してもコールドで終わりにならない様に手を打ってくれたんです。」
「成程、大差をつけて1軍を曳釣り出して、6イニング目一杯、試合をするという事だな。」
蛭田は抜け目なく立ち回った咲良の知略に気付き、感心した。
「皆、守備は最少失点で凌ぎ、攻撃は1点でも多く、目標は3イニング終了までに7点差を付ける事!」
「おう!」
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