87人が本棚に入れています
本棚に追加
周りの会話は耳に入ってくるものの、意識はどんどん遠ざかっていく。
お皿の上に乱雑に重なる役目を終えた枝豆の殻たちに視線を置いていると、「百瀬さん」と中低音が私の名前を呼んだ。
斜め前へと顔を上げる。色気が漏れた三白眼と目が合う。
「あー……すぐ持ち帰られそうな顔してんじゃん」
「そんなことないよ」
「目、やばいよ」
くすっと笑いながら、彼は自分の目の前にあったおちょこを私に差し出した。
「はい、水」
「ぜったい、ちがう」
「ほんとだって。ほら」
そう言っておちょこに入っていたものをくいっと飲み干した彼は、空になったおちょこを見せながら「ね?水でしょ」と涼しげな顔で笑った。
トクトクトク、と音を立てながらおちょこに注がれた透明な液体が、もう一度私に差し出された。
「ほら、飲んで」
甘ったるい中低音に心がくすぐられる。
「えっっっっろ!!!」
口を閉じる私の代わりにそう叫んだのは千桜だった。
「美兎くんやばすぎ。えろすぎ」
「お前はそういう手を使って普段女の子を酔わせてんだなあ……勉強になります!」
「ねーねー、このまま美羽のことお持ち帰りしちゃいなよお」
「はは、それは百瀬さん次第かな」
薄く笑う彼――美兎くんは、三白眼を私へ向けたまま、もう一度おちょこを呷った。
最初のコメントを投稿しよう!