聖書の正しい使い方 10.27

4/4
前へ
/4ページ
次へ
みんなが同時に「あっ」と叫んだ。 悲鳴を上げてすってーんとひっくり返るプリンセス!まさに一大事! しかしユズ様の護衛の兵士が、どこから出したのか巨大なクッションを素早く地面に広げたのだ! ユズ様はクッションの上でばいーんばいーんと二回お跳ねになられたが、それでも聖書はしっかり抱きしめておられた。むしろ楽しそうでもあった。 「あ、ありがとうライム」 そして次に護衛はどこからか長い板を取り出し、蜘蛛を追い払った。 「ユズ様あ!」 小さくすばしっこいアマナツは、誰より早くユズ様に駆け寄った。もちろん村長達も慌ててやってくる。 「ああ、ごめんなさい皆様。大切な儀式なのに私ったら」 護衛は今度はどこからか椅子を出したが、ユズ様は微笑んでそれをお断りになられた。 「ライム、もう大丈夫です。ありがとう」 ああ良かったと胸を撫で下ろすアマナツ達だが、すぐにまた驚く事になる。 ユズ様より頭一つ背の高い護衛のライムは、ショートの金髪の下に鋭い目を光らせた、精悍な風貌の女性だったのだ。ユズ様に注目していて気付かなかったが、相当な美形だ。 いやそれより、彼女がユズ様にお出しした椅子が問題だ。 ライムが不要になった椅子をくるりと回すと、パタパタと折り畳まれてなんと一冊の本に早変わり!彼女の手の中に収まってしまった。 そう、クッションも長い板も、全部ライムの聖書が変身していたのだ! 「う、うっそお!?」 村長との約束はどこへやら、騒ぎ出す子供達。 その最前列のアマナツを指さして、ユズ様はにっこり。 「あら、あなたは!」 今度はアマナツがひっくり返る程どっきり。 だって彼にとって一番きれいな、憧れの人はユズ様だったから。 大きな瞳はきらりと春のおひさまを写して、頬はりんごの様に透き通って(あか)い。 そんなユズ様がアマナツに何を仰るかと思えば。 「あなたはぶへっくしょんの子ね!?」 「えええ?ユズ様ひどい」 みんながどっと笑う。カボス村長も思わず苦笑い。だがライムだけはにこりともせずに周囲を警戒している。 いや、笑っていない者がもう一人いた。 バレンシアだ。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加