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みんなが同時に「あっ」と叫んだ。
悲鳴を上げてすってーんとひっくり返るプリンセス!まさに一大事!
しかしユズ様の護衛の兵士が、どこから出したのか巨大なクッションを素早く地面に広げたのだ!
ユズ様はクッションの上でばいーんばいーんと二回お跳ねになられたが、それでも聖書はしっかり抱きしめておられた。むしろ楽しそうでもあった。
「あ、ありがとうライム」
そして次に護衛はどこからか長い板を取り出し、蜘蛛を追い払った。
「ユズ様あ!」
小さくすばしっこいアマナツは、誰より早くユズ様に駆け寄った。もちろん村長達も慌ててやってくる。
「ああ、ごめんなさい皆様。大切な儀式なのに私ったら」
護衛は今度はどこからか椅子を出したが、ユズ様は微笑んでそれをお断りになられた。
「ライム、もう大丈夫です。ありがとう」
ああ良かったと胸を撫で下ろすアマナツ達だが、すぐにまた驚く事になる。
ユズ様より頭一つ背の高い護衛のライムは、ショートの金髪の下に鋭い目を光らせた、精悍な風貌の女性だったのだ。ユズ様に注目していて気付かなかったが、相当な美形だ。
いやそれより、彼女がユズ様にお出しした椅子が問題だ。
ライムが不要になった椅子をくるりと回すと、パタパタと折り畳まれてなんと一冊の本に早変わり!彼女の手の中に収まってしまった。
そう、クッションも長い板も、全部ライムの聖書が変身していたのだ!
「う、うっそお!?」
村長との約束はどこへやら、騒ぎ出す子供達。
その最前列のアマナツを指さして、ユズ様はにっこり。
「あら、あなたは!」
今度はアマナツがひっくり返る程どっきり。
だって彼にとって一番きれいな、憧れの人はユズ様だったから。
大きな瞳はきらりと春のおひさまを写して、頬はりんごの様に透き通って紅い。
そんなユズ様がアマナツに何を仰るかと思えば。
「あなたはぶへっくしょんの子ね!?」
「えええ?ユズ様ひどい」
みんながどっと笑う。カボス村長も思わず苦笑い。だがライムだけはにこりともせずに周囲を警戒している。
いや、笑っていない者がもう一人いた。
バレンシアだ。
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