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☆
果物の甘い香りの風が緩やかに運ぶ雲を、鳥が追いかけて遊んでいる青い空の下。
カンキツ王国オレンジ村の四月は、村人全員を集めてわいわいと賑やかに始まる。
「いいかいみんな、毎年の事じゃが、プリンセス・ユズ様は心優しいお方じゃ。だからって調子に乗って失礼な事をしないように!」
村長のカボスじいさんは白い顎髭を撫でながら子供達に大きな声を張り上げた。
「はーい!あはは村長さんかっこいい!」
慣れないスーツを着て、この国に伝わる『シトラス教』のありがたい聖書を胸に抱いたその姿は意外と決まっているが、逆にそれが子供達には面白いらしい。
「し、心配じゃなあもう」
今日は年に一度、この村に畏れ多くもプリンセス・ユズがお越しになり、特別な儀式を行ってくださる大切な日なのだ。
だからみんな正装して、大人は聖書を手にユズ様をお迎えする。
「村長さん、大丈夫だってば!みんな大人しくしてるからさ!」
「アマナツ、お前が一番心配なんだよ。頼むから今年は儀式の最中にぶへっくしょんとか全力で変なクシャミするなよ?」
またみんながどっと笑って、アマナツもへへっと照れ笑い。村長も苦笑い。
「そ、そりゃ去年は失敗したけどさあ!今年は絶対大丈夫!」
頭を掻きながらアマナツは、村のシンボルである『ホーリーオレンジ』の木を見上げた。
世界で一本、この村にしかないと言う高さ三十メートルを超える大木だ。
秋に生る黄金色の実は極上の味と香りから『聖なる果実』と呼ばれ、王様も毎年献上の催促をされる程、心待ちにしておられる。
ホーリーオレンジのおかげでオレンジ村は王国一番の果物の産地と呼ばれているのだ。
「カボス村長お久しぶりです」
隣にあるダイダイ村のジャバラ村長がやって来た。よく日焼けした小山の様なマッチョマンである。
挨拶ついでにと肩をトンと叩かれて、枯れ木の様な老人のカボス村長はおっとっととよろけてしまう。
「あっ、今のひどくね?」
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