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絶対わざとだろ、とアマナツ達が睨んでもジャバラは知らんぷりだ。
「ホーリーオレンジ、今年も冬を越せましたねえ。樹齢三千年、いや四千年でしたか?
来年は果たしてどうなりますかねえ」
「平気である様に、今年もこうして儀式をするんじゃろうが」
ジャバラは類い稀な働き者で、土地持ち金持ち力持ち。ダイダイ村は彼が村長になってから急激に栄えた。
しかしアマナツはあまりジャバラの事を良く思っていない。いつもホーリーオレンジを恨めしそうに見ているからだ。
そう、オレンジ村からこの木がなくなり聖なる果実が収穫出来なくなれば、ダイダイ村が王国一番の村になるのだから。
「なあアマナツ、あいつ悪い奴だよな」
「おう、みんなで見張っていようぜ」
子供達が内緒話をしていると、何だか大人達がざわざわ騒ぎ始めた。振り向くと、胸元をぱっかーんと開いた赤いドレスの女性の姿。
「うわあ刺激強すぎ!」
ミス・カンキツ王国のバレンシアだ。
ボンキュッボンと音が聞こえるスタイルと、美しいと書いてある小さな顔。
彼女が腰まで伸びた銀色の髪を誇らしげに靡かせて歩けば、男達の目は一人残らず丸くなり、後を追わずにはいられない。
まるで猫の群れの前にボールを転がした様に。
「カボス村長、お元気そうで何よりですわ」
「よ、よ、ようこそバレンシア嬢。相変わらずお美しい」
カボスじいさんもデレデレだ。
魔法使いとしても知られる彼女だが、その美貌は魔法によるものではなく、弛まぬ努力の賜物らしい。
「まもなく時間です、皆様ご整列を」
声がかかると、村人もゲストもキリッとして整列。やがて護衛の兵士を従え、法衣に身を包んだプリンセス・ユズが現れた。
「わあ……!」
小柄で華奢で可愛らしいそのお姿にアマナツが見惚れるうちに、ユズ様はしずしずと木の下に設置された祭壇の前へ。
そしてまずご挨拶を……
しようとされた時、あろう事かユズ様のお顔の前に、木の枝から蜘蛛がぶらーんと垂れ下がって来た!
「きゃああああああ」
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