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ユズ様がひっくり返った時にはみんなと一緒に叫んだバレンシアだが、ご無事だと分かると長い睫毛を伏せ、和気藹々とした雰囲気から目を背けていた。
噂によるとバレンシアは密かにユズ様の事を
「あーもう憎たらしい小娘だわキィー!」
と思っているらしい。
バレンシアはミス・カンキツ王国に輝いた匂い立つ様な美女。フェロモン全開派手派手系。
しかし推し国民の数からすれば明らかに、真逆のタイプである可愛らしく癒し系のユズ様が王国のアイドルのセンターになるからだ。
酸っぱい顔を隠していてもおかしくはないのかも。
だが、プリンセスが民に慕われるのは王国が平和である証拠。
それにユズ様はその容姿やお人柄に加え、生来よりの特別な力をお持ちなのだ。
「それでは皆様、始めます。
今年も力を貸してくださいね」
とんだトラブルで遅れてしまったが、蜘蛛はライムに叱られるのが怖くて逃げてしまった事だし、いよいよ儀式が執り行われる。
ユズ様が祭壇に向かって両手で聖書を掲げ、ホーリーオレンジにお祈りを捧げられる。
整列した村人達も同じポーズでお祈りすると、不思議な事にみんなの聖書に小さな光が灯り、蛍の様にふわりと飛んでユズ様の聖書へ集まって行く。
ユズ様の特別な力、それは『癒し』。
指先のささくれ程度なら、手のひらを当てて一日必死にうんうん唸って念を込めれば跡形も無く治せる。そして疲れて一日寝込む。
いやいや、十分凄い事だが、バレンシアならちょちょいのちょいと平気で直せる。
ユズ様が特別なのは、同じ想いの者達の願いをその身に集め、大きな癒しの力に出来る事だ。
これは誰にも出来ない超必殺技で、どんな大病に伏した者でも寿命でなければ必ず救える。伊達に癒し系ではない。
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