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「連絡は無しか」
何度か大尉に連絡を送っているものの、チェックがつかないので見ていないらしい。現在建設中の小規模宇宙ステーションの進捗確認に行って百二十八時間。予定では九十六時間で帰ってくるはずだった。しかし予想以上に進捗が遅れているので、ケツ叩きの為にもう少し滞在すると連絡があったのがおよそ八時間前。
もちろん連絡待ちの間何もしていないわけではない。カイパーベルトのあたりで何が起きたのか調べるための情報収集をしている。
「何か連絡は」
超長距離の通信も一昔前は送るだけで数か月かかったものだが、今はタイムラグがおよそ三十分以内だ。それでも部下たちは首を振る。
「どこからも何も」
その言葉にビジターは眉間にしわを寄せる。
「どこからも? 八箇所に送っているのに全てからか」
「はい」
何も異常がなくて今調べているところなのだろうか、などと悠長なことを考えるわけない。宇宙では常に最悪の想定を前提に動く。
何かあった、それしかない。
ビジターの頭の中で組み立てられたシナリオは最悪のものだ。
(カイパーベルト周辺で大きなトラブルがあった。おそらくあの周辺のステーションは全滅している、この通信を残した者は最後の生き残りだったのかもしれない。自分が乗るわけにはいかない事情があり、一番近いこのステーションに着くように無人機として発進させた)
それなら辻褄が合う、というよりはそれしか考えられない。宇宙におけるトラブルは一分一秒の判断ミスが死に直結する。
「スクランブル! 責任は俺が取る!」
「え!? は、はい!」
最重要緊急事態、本来スクランブルコールは責任者しか唱えられないはずだが。ドルモがいないのなら次の階級ではビジターが責任者となる。降格処分を覚悟した判断だ。
「状況がつかめていないから戦闘配備をしておけ。どんな些細な変化も全て報告すること!」
「では、やはり」
「カイパーベルト周辺のステーションはおそらくすべてダメだ」
その言葉に部下たちに一気に緊張が走る。すぐに全員が自分の持ち場に向かった、その瞬間だった。オペレーターが叫ぶ。
「すべてのステーション、ロストです!」
ステーションの消失。その言葉に全員我が耳を疑った。ロストは文字通りいかなる手段を持ってしてもその存在を確認することができない。ありえないのだ。
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