宇宙の天使

7/10
前へ
/10ページ
次へ
「笑えるようで笑えませんけど、一週まわって笑えてきました。いきますよ!」  カズキはヴァーチェを設計した研究者の息子だ。ヴァーチェについては誰よりも深く理解している。 「じいちゃんから教わった何だっけな、非常事態に言うの。えーっとナムアミダブツ!」  謎の言葉をいうとカズキは脱出ポッドとヴァーチェをつないだ。その瞬間館内に凄まじいアラートが鳴り、モニターにはめちゃくちゃな映像や言語が現れ始める。 「各機影響は」 「ヴァーチェ沈黙後に完全に切り離したので、戦闘機などは今のところ何も」 「准尉! て、天使が!」  通信を入れてきたのは左舷を守っている兵士の一人だった。超光学カメラで撮影した画像を送ってきた。 「なるほど、これは天使にしか見えないな。全長何キロだ」  引き攣った顔でビジターは震える声でそうつぶやく。宇宙ではスケールの確認は難しい、パイロットも混乱していて比較用の数値を入れ忘れたようだが。戦闘機から肉眼で確認できる距離にこの大きさ。そんなに至近距離ではないとなると、果たして何キロ……否、何十キロの大きさなのか。  そこに写っていたのは一見クリオネのような白い塊。縦に細長い光の筋に翼のようなものがいくつも見える。頭にはまさにクリオネの角のようなものが見えた。 「輪っかが付いていないから天使じゃないんじゃないですかね?」 「冗談が言える位にはメンタル安定したな」  先ほどまで怯えていたオペレーターに軽口を返すと、各戦闘機の動きをチェックする。もちろん既に攻撃は始めているがまるで効果がないようだ。 「ミサイルの類はダメか、爆発そのものがしていない」  あれがAIだとしたら、いよいよ夢物語とされていたナノマシンが完成しているということになる。自在に形を変え宇宙環境にも適応し、たまさに最強の兵器だ。 『セットアップ完了、安定確認。アラートが止まりません、あれはなんですか』  モニターにそんな言葉が表示された。 「こちらの天使殿も起きたか」 「で、ではまさか」 「ああ。ポッドにはあのナノマシンの初期化された状態のものがあったんだ。俺たちは脱出ポッドだと思っていたが、もしかしたら脱出ポッドそのものがナノマシンで構成されているのかもな。人が乗らなかったのは学習させないため。あくまで初期化の状態で届けるためだ。……恩に着る、勇気ある誰かさん」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加