第1章 0.01ミリメートルの防御壁※

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「それはそうだけど……」と男が口ごもる。「まだ朝まで時間があるんだよ。ピロートークをしてベッドで一緒に寝たり、お風呂へ入ったりしようよ。話す時間だってたっぷりあるし」 「必要性を感じませんね。時間の無駄です。実にタイパが悪いと思いますけど」  バーで話していた内容が本当なら、この人は二年前に私立のK大学を卒業。丸の内の一流企業で現在働いている有能なお兄さんだ。  ゲイバーで、たまたま話しかけられ、お酒を(おご)ってもらった。で、なんとなくラブホに入る流れになった。  お兄さんは清潔な容姿をしていて、身なりが整っていた。すごく歳の離れた相手でもないし、せっかく有益なお話を聞かせてもらった恩もある。  何より()まっていたから、こんな美味しい話はないと、そのまま着いていった。  絵に描いたようなエリートが、どうして時間効率を考えないんだろう? 彼は仕事のできない無能という訳じゃないのに。  ヤることヤッた後もダラダラ過ごすなんて時間の無駄だ。意味がない。  それなら大学の勉強をする。  就職のために資格取得や就職情報誌に目を通したり、ネットの情報を確認する方が有益だ。  友達と話を合わせるためにゲームや映画に時間を注ぎ込んだ方が、ずっといい。
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