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男が僕の隣で横になる。
熱を放出して冷静になってきた頭で、目の前の人間のことを観察する。左手の薬指を見て、これはハズレもハズレだなと内心ため息をつく。
「気持ちよかったよ、最高。秋くんはどう?」
「……気持ちよかったよ」
腕枕をしてこようとする男の腕を避け、身を起こす。床に落ちている下着を手に取り、足を通す。
一度ヤッただけで何を勘違いしたのか、男が甘ったるい声を出して後ろから抱きついてくる。煩わしいこと、この上ない。
「よかった。あのさ、オレら身体の相性がいいと思うんだよね。だからさ――」
「だから何? 『次』とかめんどくさいから、やめてよね」
男の腕から逃れる。白い薄手のニットを頭から被る。黒のスラックスとグレーの靴下を穿き、茶色のローファーに足を入れる。
「オレ、自分で言うのもなんだけど、」
「あのさ、左手の薬指だけ若干細くなってるよ。指輪をしている人の特徴。あなた、既婚者じゃない?」
男がピシリと石のように固まった。
「いやいや、オレ、最近離婚したんだって! それで薬指だけ、少し細くなってるんだよ!」と言い訳をつのる男の顔色は悪い。
この焦り具合からいって離婚は十中八九、嘘だろう。
女に「泥棒猫!」なんて罵られて興奮する人間じゃない。
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