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74.ニコレッタ、我儘に愛に生きる。
「私なら、主様の御病気の原因を取り除くことができます。安心して下さい」
「そう?」
そう言うカーリーに何となく違和感を覚える。
「じゃあ……なんで今、そんな顔してるの?」
「そんな顔?」
「カーリー、泣きそうな顔、してるよ?」
カーリーは顔を隠し、そして元の姿へと戻った。
『吾輩は、主様の事を思えば、今すぐその原因を取り除いた方が良いと、思っております』
「うん。私も結構つらいんだ。もう体を起こすのもしんどい……」
『そうでしょうそうでしょう!吾輩にお任せ頂けますか?』
「ほんっとつらいんだー。でもね?ちゃんとホントの事、話してほしいかな?」
カーリーはすぐには言葉を返えしてくれなかった。
背後にいるフェルとディーゴも原因を理解している様で、少し表情が暗い。
私は、少し顔を上げ、自分の体を鑑定した……
お腹の部分に、2つの別の魔力が存在した……
「この子達、ちゃんと……生まれる?」
我慢したが涙声になってしまった。
「ニコ、さすがに双子はダメだ。1人でも奇跡的なことなんだ。私は、ニコとまだ一緒にいたい……」
フェルはそう言ってベッドに体を預け頭を撫でてくれた。
「ニコは、俺達の力を受けて多分だけど神格を獲たんだろうな。だからフェルの子を受け入れることができたんだろ?」
『そうですね。多分ですが、神格とまでもいかないでしょうが、それに近い存在となったのでしょう。ですが、このままでは子供ばかりか、主様も持ちません』
悲しそうにそう言う2人。
はあ。私は、フェルと子を生すことができたんだ。
その喜びを強く感じ、絶対に死ねないと思った。
「聞いて。私は死ねないよ。この子達を産むんだ。絶対に、何が何でもでも産む。だから皆、私の我儘に協力して?」
その言葉に、誰からの返答もなかった。
部屋の隅ではクラリスが顔を両手で押さえ声を殺し泣いている。
入り口付近では、ララがこちらをジッと見ていた。
そして……
「ねえ!カーリーは魔法が得意なんでしょ!なんとかならないの!」
真っ赤な顔でララはカーリーに詰め寄っていた。
『ですが吾輩でも……』
「私だってフェル様の子を産めるんでしょ!じゃあ、私より強いニコが、なんで無理なのよの!」
ララの言葉にカーリーが唸っている。
『確かに、ララ殿もフェル殿との子を生せますよ。ですがララ殿は、100%その子を産むことはできないでしょう。子を孕むことができるというだけで、産むことができるわけでは無いのです』
「えっ?」
ララが驚いた顔をして固まっていた。
確かに、私でもこんなにしんどいなら魔力の少ないララでは多分……
でも、子を孕めるがすぐに死んでしまうって……良くフェンリルとは子が生せるなんて伝説ができたもんだ。産めないんなら意味ないじゃん。それとも、過去の獣人族に凄く魔力が高い人がいたのかな?
そんなことを思いつつ、次第にクラクラしてきた自分に泣きそうになる。
「それでも、私は産むから……」
ぽそりと口を出てしまった言葉に、カーリーがうなづいた。
『ちょっとお待ちを……』
カーリーはそう言って転移でどこかへ消えた。
その数分後、カーリーは魔王ユミを連れて帰ってきた。
「ユミさん」
「ニコちゃーん!」
私の傍まで来た魔王ユミはすぐに私を覗き込むと、両手を力強く上下させる。
「大丈夫だから!……だから皆も協力して!」
その言葉に私はまたも泣いた。
泣き過ぎて水分欲しい。チラリとクラリスを見ると、ストロー付きのボトルがサッと差し出された。こういうところは気が利くよね。そう思ってごくりと一口。メープル過多のあまーいコーヒーだった。
吐き気が込み上げると、クラリスがサッと差し出されたゴミ箱にゲーした。
私は気まずそうな表情のクラリスを睨んだ。
「クラリス、こういう時は酸っぱい系のさっぱりジュースがいいんだよ」
「えっ、そうなんですか?これ美味しいのに……」
元気なら殴ってた。
「ニコ」
フェルから差し出されたボトルを安心して口にする。レモン水かな?さっぱりして飲みやすかった。さすが私の旦那様。どこかの脳筋駄女騎士とは違うな。
その後、カーリーから何が問題なのかを説明される。
宿った赤子の魂の器が大きくて、その器には大量の魔力と一緒に魂の力も注ぎ込まれると言う。多少の魂の力であればすぐに回復するのだが、宿った子の力は強く、常時魂の力が吸い取られる為、やがてニコは存在そのものが消えてなくなると。
それが今回は双子だと言うので、このまま行けば1ヵ月も持たない可能性が高いと言う。
なので今回はユミさんとも知識を共有し、大量の魔力供給とそれを魂の力に近い物質に変換、魂に近いそれを赤子達に流し込む。その為の魔法陣を組むことができればなんとかなるはずと言う。
だがそれは机上の空論。
2人にも成功するかは分からないようだ。
「何があっても、私は産むから。だからお願い……私に、この子達を抱かせて?」
『吾輩は、主様の忠実なる下僕。仰せのままに』
そう言って私のベッドの横で膝をついたカーリーは、ユミさんとまた相談を繰り返していた。
一応ストックしていたペンダントを握り締める。
だがあまり効果は無いようだ。
必要なのは魂の力?私も自分で魔力を魂に、なんてイメージしてみたが、残念ながら現状は全く変わらなかった。
その晩、寝室の床に魔法陣を書く。
簡易的な物だと言って、1時間程度かけて直径1メートル程度の円形に書き出した魔法陣。書き込まれている文字は私には読めない文字だった。
書きあがった魔法陣の上に、ベッドをゆっくりと移動する。
その後、指をガリっと噛んだ魔王ユミの血が魔法陣に注がれた。
私は、びっくりしてヘロヘロな手を動かし回復しようとしたが、その前に魔王ユミは自分で回復してしまった。多少は治癒を使えるようだ。
そして、カーリーが魔法陣に魔力を注ぐと、一瞬お腹に何かが突っ込まれる感覚を覚え「うっ」と唸るが、すぐにその感覚も無くなり、少し楽になったような気がした。
『主様、これは応急処置にしかなりません』
そう言うカーリーだが、それでも楽になったことは事実だ。
「ありがとう。カーリー、それにユミさんも」
「まだこれからだから!」
魔王ユミはそう言って、ベッドがあった部分に座りカーリーと何やら話し始めた。
それから眠くなってきた私は、気付けばぐっすり寝ていたようで、少しだけ気分よく目覚めることができた。
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