10.ニコレッタ、必死で思考を巡らせる

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10.ニコレッタ、必死で思考を巡らせる

2人の男がジッと見つめる中、私は必死で返答を考える。 「それは、知り合いの人から貰った物です。一つしかないので返してくれるとありがたいです」 とりあえず無難にそう言ってみる。 「そうかい。だが、さっきそちらの女性に渡した物の中にも、同じようなものがあった気がするが?」 そうだった。私は先ほどの自分の迂闊な行動を思い出し、必死で言い訳を考えたが、すぐに返答することができなかった。 「まあそれは良いんだよ。それよりも私たちはその知り合いという方を紹介してほしいんだよ。きっと良いお仕事の話ができると思うんだ」 「えっと、多分だけど無理だと思います。その人は人見知りだし……」 今度は咄嗟に良い返答ができたと内心ホッとする。 「それは話してみなければ分からないだろ?大人の話だから子供には分からないよね?君が勝手に断って良い話では無いんだよ」 「それは……」 少し語尾が強くなってきたバッティスタを見て、どうしたものかと考えてしまった。 「あの、バッティスタ様も、ニコレッタちゃんはまだ子供なので、すぐに返答は出来ないと思うので今日のところは……」 エレナの助け舟に嬉しくなるが、目の前のバッティスタはエレナをキツイ目つきで睨みつけたのを見て慌ててしまう。 「私が話をしておきます!来週ここで返事するから!それでいいですか?」 思わずそう返すがそのうち返答するの方が良かったかな? 私の返答にニッコリと笑顔をむけたバッティスタは、「では、そう言う事で」と椅子を立った。部屋を出ようとした2人を見て「あ、容器……」と言ったが、バッティスタは一度振り向き、すぐにふいっと顔を背けて出ていってしまった。 それからエレナからまた謝られたのだが、そもそもは私があれを忘れて放置しておいたのが悪いのだ。色々と迂闊だったことを反省し気にしないでと伝えるが、エレナは涙目で「こっちで何とかするから暫く来ない方が良い」と言ってくれた。 私はもう一度「大丈夫だから心配しないで」と伝えておいた。こういうのは早めに終わらせておかなきゃね。結局その後はエレナの膝の上にのせられ、一緒に昼食を取りエレナの休憩時間いっぱいをくっついて過ごした。 エレナの甘やかしに少し気分を良くた私は、いつもより多くの魔力を籠めて身体強化して森まで帰った。 あれから毎日フェルに癒された私は、約束の日まで森を彼方此方散策していた。 どこかに胡椒はないかな?サトウキビやビートでもいいけど。そう思いながら探すが、残念ながらそれらは見つからなかった。 その代わりという訳ではないが、ニラとわらび、タケノコは見つかった。年々身体能力も上がり、それに比例するように身体強化の効果も高まり、森を探索する範囲も広がった結果である。 土魔法で根から丁寧に掘り出したものいくつか持ち帰り、拠点に作ってある畑に植えている。 残念ながらどうやって増えるのか分からないので、それぞれ5つぐらいを持って来てはまとめて植えていた。こうしておけばその内増えるだろうと思っているが、ダメなら都度取りに行こうと思っていた。 本当に欲しければ王都で買えば良いし、お金には困っていないので完全に趣味のようなものだ。 そんな日々を過ごすとあっという間に1週間が過ぎた。 少し憂鬱だが仕方ない。そう思って焼き立てパンを持ちノルベルトの分を切り分けておくが、面倒になり今日はシロップのみだ。イチゴのシロップを2つの容器に入れてバッグに入れていつものように詰所まで向かう。 ノルベルトには容器は隠しておいてと伝えたが、すでに経緯は伝わっていたのか少し待てと言われ、10分ほどで2枚に分けた厚切りパンがノルベルトの胃の中に収まった。そして一緒に行くと言われたので素直に甘えることにした。 冒険者ギルドに到着すると、入り口付近で待っていたエレナに談話室へと案内された。 室内には三人の各ギルド長がすでに待っていたようだ。 バッティスタとティエポロの2人はこちらを見て背後のノルベルトに一瞬驚くが、すぐに表情を戻し私に軽く挨拶をして着席をうながしてきた。 「さて、あれを作ってくれた人は何と言っていたのか、聞かせてくれるかな?」 フラビオの最初の質問に少し緊張して息を呑む。 「じゃあ師匠からの返答を伝えますね」 子供っぽく話し始めた私は、架空の師匠を作り出し目の前の2人に向かって話し始めた。 「師匠は、面倒だからそれはもう作らないし必要な数だけ作ったから売ることもないって言ってました。だから今回はごめんなさい」 その返答に顔を見合わせる2人。 「その、師匠と言う人には話は出来ないかな?かなりの高額で買い取ることもできるという話をしたいんだ」 「なんなら、一度その作っている様子を見るだけでもいい!俺は教えを乞いたいだけなんだ!」 2人の反応は凡そ予想の範囲だった。 「師匠はもう弟子は取らないし、お金も使いきれないぐらいあるからいらないそうです。あと面倒なので人付き合いをしたくないって」 「でも君はその人の弟子なんだろう?」 食い下がるバッティスタ。 「私は師匠の親戚だし」 「そ、そうなのか。じゃあニコレッタちゃんからも一度だけで良いから会ってあげてってもう一度頼んでくれるかな?それだけで紹介料をあげても良いから」 「私もお金に困ってませんよ?」 「いや、まだ小さいから分からないだろうけど、お金はいくらあっても困るものでは無いんだよ?」 しつこいバッティスタにちょっと嫌気がさしてきたが、イラつきを押さえてなんとか返事する。 「私、ひとりで<ワイルドボア(大型の猪)>とか<ブラックオーク(黒毛の豚顔)>も倒せるので。お金が欲しければ好きな時にそれを狩れば困らないんだよ」 そう言って首をかしげてみる。少し恥ずかしいが子供の特権を使ってみよう。 私の言葉に長い沈黙が生まれる。 目の前の2人が口を開けて固まっているが正直早く終わらせて帰りたい。そう思っていた。
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