54.ニコレッタ、新たな人生の岐路に

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54.ニコレッタ、新たな人生の岐路に

戦は終わった。 後は互いが担当の者を派遣して話し合いをして決めればよい。 もう争う気力もないのだろう。 皆、帰り支度を……まだ私を拝んでいる人もいるが、早く帰る準備を始めた方が良いよと誰か伝えたげてほしい。 私はフェルに寝そべるようにしがみ付くと、そのまま森へと帰るべく出発した。 見送りなのか大歓声が聞こえていた。 拠点の森へと戻った私は、ベッドに寝ころぶとすぐに意識を手放した。 そして…… ここは? 見覚えのある白い空間。 「やあ。元気にしてたかい?と言ってもずっと見てたから、君が元気なのは知ってるけどね?」 「神様?」 「そうです!私が神様です!……っていうのが昔あってね?分かんないよね?」 無反応な私に、見えない顔の自称神様が、何となく落胆しているのだと感じた。 「ごめんね神様。私、テレビとかあまり見てなくてさ?何かのネタだったんだよね?多分普通の人なら楽しく笑ってくれたと思うよ?」 「すべったネタをひっぱるのは良くないよ?」 「うん。そうだよね……で?私はどうしてここに?」 「そうだね、極論を言えばニコちゃんの、いや、新見玲奈ちゃんの役目は終わったという事、なんだよ?」 私は懐かしい名で呼ばれ、ズキリと胸が痛むのを感じた。 「役目?終わった?」 それと同時に役目が終わったと聞かされたことに戸惑っていた。 何それ。終わり?どういうこと? あの世界での人生は期限付きだった? これからは私の自由気ままな異世界ライフでアーイェイ!となるんじゃないの? 混乱する私を置いてきぼりにして、神様は私が転生しなくてもいずれ王国と帝国は戦争をはじめ、それがこの大陸の中では終わらず世界全体を巻き込んだ争いになるのだと話していた。 私はある意味、そんな人災を回避するためにこの世界に呼ばれたのだと説明された。 そして、それが回避された今、私の役目は終わったのだと…… 「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。玲奈ちゃんには選択肢があるんだ。このままあの世界のとどまり平和に?うーん、まあ平和に暮らすか、地球に戻って暮らすか…… もちろん地球に戻るなら恩恵として色々と改変してあげるけど。幸せな家庭で育ち、すでに両親は他界してるけど優秀な玲奈ちゃんは起業して一生安泰。どう?魅力てきでしょ?」 「ええ、まあ」 ちょっと頭がついていけない私は、なんとなしに返事した。 だが、平和と言い切ってくれない今の世界について、さすがにちょっとぐらいは説明してほしいかな?と思った。 「どちらもで良いんだよ。僕としてはどちらを選んでも自由に生きてほしいと思ってるんだ。ゆっくりと考えてほしい。前の様に1週間ほど時間を与えるから考えてみてよ」 そう言われた私は、地球での生活を思い浮かべてみる。 文明の利器に囲まれ、何不自由のない生活ができる幸せな未来を…… 胸の奥がチクリと痛みを感じる。 思い出すのはフェルの顔だった。 思えば最近は人型のフェルにはあまりくっつかないようにしていた。 だってドキドキするんだもん。 フェルは神獣様で、それは分っている。種族も違うし寿命だって私とは…… 「ニコちゃんとして生きるなら寿命は長いと思うよ?」 「えっ?」 そう言えば私の心もこの目の前の神には筒抜けに…… 「ちょっと!私の乙女心を勝手に覗かないで!」 「ごめんよ。もう口出しはしないから。でも心の覗くのは変えられないから勘弁してね。オンオフを切り替えられるほど便利な力ではないからね」 「うぐっ」 私は恥ずかしすぎて口をぎゅっと結んだ。 でも、すでに私の中で答えは決まっていた。 今のあの世界でフェルと少しでも長い時間を一緒に過ごしたい……そう思いながら胃のあたりがチクチクと痛む。神経性胃炎?まさか胃がん?……私はチラリと神様を見る。 「大丈夫。ニコちゃんは健康体だよ。3つの加護を持っているんだから」 その言葉に安堵した私は、神様に自分の願いを伝えた。 目を開く。 目の前には心配そうにのぞき込むフェルの顔があった。 どうやらフェルに包まれるようにして寝ていたようだ。 「フェル。私爆睡してたみたいだけど?もう朝?」 『ニコは3日も起きなかった』 「え?3日?」 『そうだ!心配したのだぞ!』 「はー」 なんてこったと思いながら大きく息をはき出した。 あの空間はきっと時空が歪んでいるか何かなのだろう。あの場で1週間悩んでいたとしたらどんだけ時間が経ったか分からない。それとも1週間居座っても同じなのかな? 考えても分からないことは無駄だな。そう思って考えることを止めた。 それよりも…… 「フェル、お腹すいた」 『2人にはもう伝えてある。直に呼びにくるだろう』 そう言われて、まったく使っていない念話のことを思い出す。 使いすぎると実際に会話しているのか、念話で話しているのか分からなくなるから極力使わないようにしていた能力だ。 『ディーゴもカーリーも、心配かけたみたいだね』 2人にも念話を使ってお詫びしておいた。 「大丈夫!もう肉が焼けそうだから食べようぜ!」 部屋の扉からディーゴが顔を覗かせてそう言った。 「主様。コーヒーもサラダも準備完了しております」 執事なカーリーもディーゴの後ろからヒョイと顔を覗かせそう言った。 「よし!食べるぞー!」 私は寝室を飛び出すと、肉とコーヒーの良い匂いに鼻をスンスンさせ、テーブル前に座って待った。 そして、いつもの様にとなりには人型のフェルが…… ドキリと胸が高鳴った。 待って?隣に座っただけだよ? どうやら私は、地球に帰れると言われこの生活も永遠じゃないかもと認識した時に理解してしまった。 己の恋心に…… 前世を含め恋をしてこなかった私の貧弱な心臓が、意識してしまった恋心に激しく反応してしまうことを悟った。 もうすぐ16になる私。 この世界だと社交界デビューして、婚約者と結婚の話をする年齢だ。 だが私は婚約者もいなければ、前世の22年を含めて38年間で初めての恋心だ。 私は……この世界で寿命を全うできるのだろうかと心配になった。 「ニコ、食べないのか?」 「ひゃ!」 急に覗き込まれのけぞり椅子ごと倒れそうな私を、フェルが優しく抱きとめる。 真っ赤になったであろう私が狼狽えながらフェルから離れ、椅子をそっと遠くにずらして食事をはじめ、フェルはそれを首を傾げながら見ていた。 残念ながら今日の朝食は味が全く分からなかった。
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