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09.ニコレッタ、男二人に見つめられ
「これは良くできているな」
「そうか。素人目にしても良いものだと思ったが、やっぱり精巧に作られているのは間違いないんだな?」
「ああ。これを作る技術は残念ながら俺にはねーよ。土魔法でこの軽くて丈夫な金属を生成するにしても魔力が足りねーし、どこで手に入れた?どこかの大魔導士様が作ったと言うならそれまでだが……」
「いや、偶然見つけた物だがお前でも無理、か……」
手のひらサイズの金属質な容器を見て唸っているのはロドリゴ・ティエポロというドワーフ族の名家で鍛冶ギルドの長をしている男である。
軽く固く、少し甘い匂いの残るその器の上部の内側には螺旋状の溝が掘られ、それにぴったりと嵌めこまれるように手持ちのついた少し厚めの蓋を回せばきっちりと閉まる。寸分の狂いもなく作られたそれは、外気をしっかりと遮断してくれるだろう。
このような小さい器に精巧な作りを求めるなら、土魔法を使って生成するしかないだろう。一応これでも王国一の腕を自負しているロドリゴはそう思っていた。
「これをどこで?」
「冒険者ギルドでな、偶然見つけたんだよ」
そう言ってフラビオ・バッティスタ子爵、商業ギルドのギルド長を務める壮年の男は経緯を話す。
数日前、冒険者ギルドに赴きギルド長と仕事上の契約の話を談話室で行った。
その際にテーブルの上に置いてあったのがその容器だ。
はじめは砂糖でも入れてあるのか?と思ったがこんなところにそんな上等なものは無いだろう。そう思いながら細部も確認する。中は空だがかなり甘い香りがしたと言う。冒険者ギルド長にこれは何かと確認するが「知らん」と返ってきた。
その時、茶を持ってきたギルド職員が「あっ、ニコちゃんの……」と言うのでニコちゃんとは?と確認すると、「知り合いの子の忘れ物です。次に会う時に返しておきますね」と言うが、多少強引だが少しの間、貸してほしいと願いでた。
最初は断られたが、冒険者ギルド長の権限で1週間ほど借りることができた。すぐに持ち帰り商人ギルドの役員たちにも見せたが、それを扱っているところも見つからずに明日には返す予定であると。
2人で彼是と話し合った結果、やはり土魔法だろうと結論付けた。
もしかしたらこれを作り出す土魔法に特化したフリーの魔術師がいると……
ロドリゴは、明日の返却にフラビオと一緒に立ち合い、ぜひその持ち主に合わせて欲しいと協力を願い出ることになった。
そして2人は思うのだ。
この技術、俺たち2人が手を貸せばもっと有用に活用して大儲けさせてやることができる。そうなればその者も喜んで協力してくれるだろうと……
◆◇◆◇◆
今日も朝食後、日課になっているフェルのお腹に顔をうずめながら微睡み、お腹を落ち着かせていた私。
暫くすると良い匂いが漂ってきて顔を上げる。
そろそろお土産のパンが焼き上がりそうだ。今日はイチゴのメープルにしようかな?ワイルドボアのベーコンと拠点に作った畑で採れたほうれん草を軽く炒たのとトマトも持って行こう。きっと2人も美味しいと言ってくれるはず。
手早くバスケットにそれらを詰め準備を済ませると、いつもの様にフェルに乗り森の西側の入り口まで送ってもらう。そこからは身体強化をして走るとすぐに東門の詰所まで到着だ。
早速中に入ると、ノルベルトは顔を見せたがエレナはそこに居なかった。どうやら今日は冒険者ギルドの方にいるらしいので詰所を出ようとしたのだが、ノルベルトが「俺のパンは……」と呼び止められた。
私は振り返りながら「また今度ね」と伝えるとノルベルトは膝をつき、「また、今度な……」とうなだれた。
その様子に少し笑って「仕方ないな」と用意してあった皿をテーブルに置き、そこにパンを半分に切り、ベーコンとほうれん草を皿の端に乗せる。即席で作った小さな器にベリーのメイプルシロップを半分入れてその横に置いた。
顔を上げニパっと笑うノルベルトを見てまた笑った。
忠犬のように手を振るノルベルトに見送られ、冒険者ギルドまで少しだけ身体強化して走る。すぐに到着したギルドに入ると、エレナがばつが悪そうな顔をしてこちらを見ていた。
「ごめんね。今日はちょっと、色々あって向こうに行けなかったんだ」
「そうなんだね。忙しいなら仕方ないよ。ノルベルトさんには半分渡したから、後で食べてね」
そう言ってエレナに笑いかける。
そしてバッグを開き、中に入っているパンの包みとベーコンなど、シロップの容器も半分入っていると振って見せ、バッグごとエレナに手渡した。予備のバッグもあるし次回返してもらえば良いと思った。
「ちょっと話を聞きたいんだが、良いかな?」
不意に横から野太い声が聞こえてきたのでその声の方を向く。
どうやら声の主は目の前の全体的に太い体に髭もじゃな多分だけどドワーフのおじさんだろう。その隣には青っぽいヒラヒラした服を着ているおじさんもニコニコしながら立っていた。
「君がニコレッタちゃんかな?」
「はあ」
突然の声に戸惑っていると、すぐ横に来てすまなそうにしているエレナの顔を見て、厄介事なんだろうなと分かってしまった。
そしていつもの談話室へと案内される。
自己紹介が始まり、ドワーフは鍛冶ギルドの長でロドリゴ・ティエポロ、もう一人が商業ギルドの長で子爵のフラビオ・バッティスタと言うようだ。名は知らないが冒険者ギルドの長だと言うおじさんと、エレナも同席してくれた。
「まずこれだが、君が作ったという事で良いのだろうか?」
そう言ってフラビオが懐から出したのは、シロップを入れていたスチールの容器であった。それを見た私は何となく察してしまった。用件は中身のシロップか、それとも容器の方かな?なんなら両方?
目の前に置かれたそれを見ながらどう返答しようか考える私だった。
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