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10.告白
俺は、ローランドさんをじっと見た後、ゆっくりと話をはじめた。
「俺は、あの勇者と共に召喚され、そして俺の天賦にがっかりした王により、牢獄の最下層に転移させられた」
「牢獄の最下層って……あの、罪人送りの門をつかったのか?」
「あの門ってそんな名前だったのか。勝手に異界に連れてこられた俺の、どこが罪人なんだろうな?」
俺の返答に眉間を押さえたローランドさん。
「それは分かった。そして、無事に戻った君を、俺は褒め称えたい。その上で問う。何があっても殺すという手段で復讐を遂げたいと言うのか?」
「ああ」
「それはレベッカを巻き込んでも、とうことだな?」
この言葉と共にローランドさんから少し殺気が漏れる。
「私は、セイジの話を聞いて、そして一緒にその道を歩みたいと思った。だからここに居る。ここに居るのは私の意思。邪魔しないで!」
「レベッカ……」
ローランドさんに強い口調で気持ちを伝えるレベッカに、茫然としたローランドさんはかろうじてレベッカの名を呼んだ。
「横から失礼するが、君が恨むのも無理は無いなと思う。その話が本当ならだが、お前たちの様子を見たら多分、君の話は本当なんだろうな……」
座り込んでいた冒険者の1人がそう言う。
「ああ。本当のことだ」
「なら、俺たちは帰らせてもらう。邪魔はしたくないい。いいだろ?」
そう言って名も知らぬ顔の冒険者達が5人立ち上がった。
「ああ。仕事の邪魔して悪かったな」
「問題ない」
そう言って手を振り出ていく冒険者達を見送った。
「さあ、もういいだろ?」
「本当に、やるんだな」
「ああ」
ローランドさんの言葉に相槌をうつ。
「レベッカも、後悔しないのね?」
「うん」
カトリーヌさんの言葉に笑顔で答えるレベッカ。
「うー、ううー!」
唸っているダンゴムシの様になった王へゆっくりと刃を落とす。
背中にズブズブと刺さる痛みに藻掻く程、王の背中の傷は大きくなってゆく。
ビクンビクンと打ち上げられた魚の様に跳ねる王に、俺は何度も刀を突きさしてゆく。
「俺の、怒りを知れ!」
そう言って最後はその首を切り落とした。
室内に悲鳴が響く。
改めて見渡せば、あの時の兵がいる。
マルセルさんの隣に見覚えのある2人の兵が……
俺を見送ったあの上級騎士という2人の兵と目が合うと、マルセルさんの背中に隠れるようにするその様を見て笑ってしまう。
「マルセルさん、そいつら引き渡してもらっていいですか?」
「そうだな。貴族上がりで思い上がった輩だ……」
マルセルさんは両脇の兵を捕まえこちらへ突き飛ばす。
よろよろとバランスを崩す2人の足を横薙ぎに切り落とす。
「後は……」
またも周囲を見渡す俺は、先ほど腕を切り落とした男の近くにいる男に視線を向ける。こいつもだったな。後は……
「そいつと、そいつ。後はそいつかな?」
指を指しながらそう言うと、マルセルさんがその男たちを捕まえ俺の前に投げよこした。
「ありがとうございます。マルセルさん」
「いや、俺にできる数少ない罪滅ぼしだ」
「はは」
そう言いながら床で狼狽えて命乞いしている三人の足を切り落とす。
無様に泣いてまた許しを請う5人を見て、突然虚しさが込み上げた。
「もういいか……」
小さく口ずさみ、絶望を感じ顔を歪ませた者達の首を落とした。
「終わったね」
「そうだな……思ったより、スッキリしないもんだな」
「じゃあ、ホテルに帰ってスッキリする?」
顔を赤らめ上目遣いでそう言うレベッカ。
頼むからこんな状況でそんな話をするんじゃない。
「お熱いのは分かったが、これからどうするんだ?」
「どこかにこもってゆっくり暮らすさ。どうせ元の世界には戻れないし、戻れたとしても戻りたくはない……」
そう言いながらレベッカを見つめ頭を撫でる。
「それより、そっちこそどうするんだ?」
「それは、王の決めること、かな?」
マルセルさんがそう言ってチラリと横を向く。
目線の先にはこの部屋への入り口があり、そこには綺麗な女性と、中学生ぐらいの男の子と女の子が顔を覗かせていた。
俺は大急ぎでこの惨劇の場を整理した。
次元収納に亡骸を入れ、その間にカトリーヌが水の波を何度も床に打ち付け、床に広がる血しぶきを押し流した。
「あの、何やら騒がしいようですが……」
気まずい……
「王妃様、少しお話をよろしいでしょうか?」
予想はしてたがやはり王妃だった。
だから俺とカトリーヌさん以外の全員が跪いていたんだよな。いや分かってた。カトリーヌさんも魔法をぶっぱなしてから即座に膝をついていたし……でもまあ、俺は良いよな?異世界人だし。
そんなことを考えている間にマルセルさんが三人を連れ部屋を出た。
「俺らはどうしたら良いんだろうな?」
「まあ、団長殿に任せよう」
そう言って頬を掻くローランドさん。
レベッカはカトリーヌさんとローザさんで集り何やら話をしている。
フェランさんは大の字になって天井を見ていた。
それから数分後、王妃様と子供達を連れ、マルセルさんが戻ってきた。
「話は聞きました。陛下の、いえ、オーレリアン・ガレルの起こした罪は当人が死しても消えません。私からも謝罪を致しましょう」
そう言って頭を下げる王妃様。
「私は、この国の王族として責任を持ちこの子を、リイレイアを新たな王として民に尽くす道を一緒に模索したいと思います。ですので、クロダ様もどうかこの国で、平穏に御暮し頂ければと、そして、私達を厳しい目で見守って頂けたらと思います」
「いいの、ですか?」
王妃様の提案に戸惑ってしまう。
「ええ。クロダ様の怒りごもっとも。あんな男、殺されて当然です!」
急に顔を真っ赤にして怒り出す王妃様にギャップ萌えしそうになる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
俺のその言葉に笑顔を向けてくる王妃様を見て、王族は大変だなと思った。
「私はリイレイア・ガレル!新たな王となりこの国を豊かに、過ごしやすい国にする事を、クロダ様に誓います!」
「いや、俺に誓わなくても、住みやすい国にしてくれると、ありがたいです」
新たな王が俺に鼻息荒く宣言するので、ほっこりしつつも思わず敬語になってしまう。
「お兄ちゃんは正義の味方?」
「ん?」
気付けば先ほどの女の子が俺に足にくっつき、顔を上にあげてそう言うので、どう返したら良いかと考える。
とりあえず……
「俺は、とっても悪ーい奴なんですよ?近づいたら食べられちゃいますよー」
膝をついて目を合わせてそう言っておく。
「セイジはそんな小さな子もいけるのですか?」
驚いた表情でこちらを見るレベッカ。
両脇の女性陣も冷たい目線を向けてきている。
「そう言う意味ちゃうわ!冗談だろ冗談」
「お兄ちゃんが、あの意地悪な勇者を倒したんだよね?」
「え?なんで?」
突然かけられた言葉にきょどってしまう。
「リエロッテは夢見というスキルを持っているのです。自分にとって重大な過去や未来の事が、断片的に夢に出てくるんです。その、ちょっと前に黒いお兄さんが勇者をやっつけた!って言ってたので……
この子、以前あの勇者に体を触られたりしてその……」
あのバカは……同郷の者として胸が締め付けられる思いだった。
「勇者大っ嫌い!私の体に触れて良いのは結婚する素敵な旦那様だけなんだもん!」
そう言ってまた俺にしがみつく少女リエロッテ。
ではこれは、まずいのでは?
「へー、もしかしたら次の王様はセイジかもしれないですね」
「いや、待って?そんな未来ないから!」
レベッカが少し笑いながらそう揶揄ってくる。
「ダメ、ですか?」
下を向けばうるうると目に涙を浮かべる少女が……
俺はどうしたら良いのだろう。
「か、勘弁してくれ!」
そう言って俺は牢獄の77階層に独り転移した。
その後、なんの問題もなくレベッカと結婚した俺は、異世界で何不自由なく暮らしたとさ。
これは……
いじめられっ子の俺が追放され這い上がり、
良き伴侶と巡り合い、己の復讐を成し遂げ、
いつの間にか嫁が3人に増えてしまう物語……
~ おしまい ~
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