09.強襲

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09.強襲

そして祭りの当日がやってきた。 「準備はいいか?」 俺は最後の確認としてレベッカに問う。 「復讐をやり遂げたセイジと、どこか遠いところでひっそりと幸せに暮らすの。それが今の私の夢。もちろん叶えてくれるんでしょ?」 「もちろんだ」 そう言って俺たちはまた唇を合わせた。 このまま2人でまったりとしていたかったが、祭りはもう始まっている。お昼頃には挨拶があるというので、俺は下調べ済みの城のテラスが見える丘まで転移した。 次元収納からしっかりとした足の台を出し、その上に椅子を出しドカリと座ってその時を待った。 得物は牢獄の60階層付近で銅箱から出てきた弓だ。 ブラッドボウ(風):魔力の矢を放ち相手の魔力を吸い取る吸血状態を付与 俺には的中スキルもあるので問題なく狙えるだろう。 死にはしないだろうが大混乱の中、目視でテラスの中にば転移する。そのまま押し込んでじっくりとその命を刈り取ってやる…… そして挨拶の時間となった。 俺は手を振りながらテラスに顔を出した国王を見て、自分でも驚くほどの殺意が湧きあがってきた。 「セイジ」 背後から優しい声が聞こえる。 レベッカに後ろから抱きしめられ、そのぬくもりに心が落ち着きを取り戻す。 「ありがとう」 そう言って胸の位置に回されたレベッカの手にそっと手を重ねた後、ブラッドボウを取り出し構える。短く息をはき出すと、魔力を籠めて王の首筋に狙いをつけ放った。 真っすぐに赤い魔力の矢が飛び、小さな風切り音をたてる。 目標へ向かって飛んだ矢は、テラスの手前でバチっという音と共に矢がはじけ飛んだ。 それを確認しながらも俺は予定通りに転移で飛んでいたが、その転移すら弾かれるように手前への転移となった。結界か何かで阻害されたのだろう。 確かにそういったものがあっても不思議じゃないな。 そうも居つつ少し上に転移で飛ぶ。 「捕まってろよ」 背中にしっかりとしがみ付くレベッカにそう伝えながら、いつもの暗黒刀(闇)に持ち替えると目の前にある何かへ振り下ろした。 抵抗なく振り下ろした瞬間、パリンと音を立てたので多分だが破壊されただろう。そう思って再び転移でテラスの中に無事着地する。 すぐ前を逃げ出している国王たちの背中を目で追った。 そこは玉座がある部屋だった。 あの、転移で最初に連れてこられたあの部屋だ。 玉座にしがみつく様にしてこちらも見る王は「何者だ!」と聞いてくる。 「お望み通り自己紹介しようかな?」 そう言って仮面を外す。 「お忘れでなければ、2度目ですが、覚えておられないですか?」 「な、何者だ!」 俺は我慢できずに刀を振るが、それは先ほどと同じように何かに阻まれた。 「オマケ、オマケの男です!」 そう叫んだのは召喚の際にもいた男だった。 こいつも復讐対象だったな。 もう一度斬撃を飛ばすが同じようにそれは弾かれた。 「ひっ」と悲鳴を上げるその男を見ながら、厄介だなと歯噛みした。 先ほどとは違うマジックアイテムなのだろうか?空間を切り裂くはずの暗黒刀が弾かれるとは…… 「これ使う?」 そう言って剣を差し出すレベッカに、俺もニヤリと笑い魔力を籠める。 思いっきり上から振り下ろせば業火が丸ごと国王達を飲み込んだ。 「ギャー!」 悲鳴が聞こえるが炎が消えた後、両サイドにいた魔導士達がキラキラとした何かを放っていた。 氷魔法か何かなのだろう。 中にいた者達は無傷であった。 「レベッカ、良く考えたらこれは駄目だったわ。これじゃ無差別に焼いてしまう」 「そっか」 俺は再び暗黒刀に持ち替え、今度は大目に魔力を籠める。 そして放たれた斬撃はズバンという音と共に結界を突き破ったようで、陛下の右腕が真っ赤な血しぶきと共に飛んだ。 久々に使った割と本気の空間を切る力だ。 最初からこうやって使えば良かったな。 慣れ親しんだ愛刀を撫でるように再び念入りに魔力を籠める。 ふと見ると、魔導士が玉座の横に付いている魔石に魔力を籠めていた。 どうやらあれが結界の発生源なのだろう。 ならばとその魔石目掛けて刀を振り下ろす。 玉座が斜めに切断されてずり落ちる。 それを見た王の大きな悲鳴が聞こえる。 「よせ!やめろ!何が欲しい!」 周りの者達に殺気を放ちながらゆっくり近づく俺に、王が何やらさえずっている。 「金か?地位か?望みがあるなら申してみよ!」 この期に及んで命乞いする王に笑みを向ける。 「望みか?そうだな。今一番ほしいのは、お前の命、かな?」 それを聞いた陛下は半分となった玉座にしがみつきながら、震えながら体液を垂れ流している。 「陛下!無事ですか!」 そんな中、ドカドカと音を立ててやってきたのは、警備に当たっていたであろう冒険者達であった。 その中には疾風の4人もいた。 「早く、早くその2人を殺せ!」 国王がそう叫ぶが、冒険者達は動けなかった。 俺から出る威圧に足が動かないのだろう。 「クロダ、だよな?」 「そうだな。こんなところで会いたくは無かったよ」 ローランドの言葉に少しだけ胸が痛む。 「レベッカも……何をやってるの!」 「カトリーヌ、これは大事な復讐なの。セイジにはその権利があるの」 カトリーヌが顔を歪ませレベッカに声を掛けるが、レベッカは笑顔でそう返す。 「何をやってる!早く賊を殺さぬかこの愚図共が!ギャー!」 俺はうるさい騒ぐ王の足を切り落とす。 もちろん傷口は超回復で塞いでおいた。 「わ、私は悪くない!この王に、王に命じられただけなんだ!」 そう言う男の腕も切り落とす。 「や、やめろクロダくん!」 「ローランドさん。俺は、あなた達を殺したくはない。俺の前には立たないでもらえますか?」 そう言って殺気を垂れ流す。 「クロダくん。少しだけ、説明してくれるかな?ほら、君は強いだろ?少しぐらい待ったって、その、目的は達成できるんじゃないか?」 必死の表情でそう言うローランドさん。 「ローザさん、その2人、死なないように維持できますか?」 「それは任せて」 ローザさんが王と横にいる男に軽めの回復魔法を放っている。 「じゃあ俺は、逃がさないようにしておこう」 そう言ってフェランさんが何かのマジックアイテムを使った。 生きているように動き出したロープにより2人が拘束されている。 「流石にフェランさんにも迷惑がかかる。そこまでは必要ないよ」 「いや、お前が殺すとういのならそういうことだろ?」 笑顔でそんなことを言うフェランさんの不意打ちな言葉に泣きそうになる。 「はは。ありがとうございます」 涙がこぼれないように歯を食いしばる。 「こら!放せ!」 叫びながら暴れる王をフェランさんが殴っていた。 「なあ!お前たちはこの賊の言うことを聞くって事でいいんだよな?」 不意に名の知らぬ冒険者がローランドさんに声をかけた。 「そうだ。こいつがそう言うなら何かがある。それを俺は聞きたい。それに、こいつが本気だせば一瞬でここに居る全員が死ぬ」 「冗談、だろ?」 「冗談だといいな」 どうやら話し合いにより他の冒険者達は状況を見守るようだ。 そっと座り込む冒険者たち。 そんな中、こっそりと室内から逃げようとしている者達をレベッカが睨みつけている。さらに逃げようとした者には容赦なくレベッカの剣戟が飛んで腕や足を飛ばしていた。 俺は慌てて超回復で傷口を塞ぐ。 「大人しくしててください。なるべく無関係の人は殺したくないですから」 この言葉で全員が諦めたようにその場に座り込む。 ローランドさんが近くまで歩き胡坐をかいた。 俺も同じように近くに座る。 レベッカはそのまま周囲を見渡し睨みをきかせているようだ。 「まずは、俺は異世界人だ」 その言葉に周りが驚きの声をあげる。 「思い出した!あの、あのオマケくんか!」 今更思い出した王をじろりと睨む。 「あの時の事なら謝る!謝罪と賠償をする!だからこんなことは止めよ!」 「ちょっと黙っててくれる?我慢できず速攻殺したくなるから!」 その言葉でフェランさんが布切れを出して王の口にねじ込んでいた。 それを見て笑いそうになったが、気を引き締めてローランドさんを見る。
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