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1.運の悪い女
千代田区神田神保町。
出版社にふさわしい住所だが、出版社街からは大分離れた場所にある築40年のビル――プレートには鴨川ビルヂングと書かれている、その4階にあるのが百目鬼出版だ。
手動のガラス扉を開けると、古びたインクの匂いと壁に染みついたタバコの匂いが混ざり合って出迎えてくる。
「おはようございまーす」
「おうコナン! いいところにきた、今から怪奇ファイルっつーのを転送すっから中身確認しといてくれ」
「はーい」
利根川湖南、23歳。入社2年目。お洒落大好き、オカルトとホラーは大嫌い。あだ名はコナン。ファッション誌志望なのに、なぜかオカルト誌『幻怪』編集部に配属させられた。
それもこれも生まれつきの不運体質のせいだ。
そもそも百目鬼出版しか合格しなかったのは、一社目に受けた本命が、まさかの手違いで内定扱いとなってしまった、というのが発端。
その手違いが判明したのは、各出版社のエントリー期間がほぼ締め切ってからで、無情にも一社目の内定を取り消された湖南に残っていた選択肢は、百目鬼出版一択だった。
「怪奇ファイル――……と、これか」
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