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2-7 夏の贈り物
暑い暑い、夏。
北海道には梅雨がないのは良いけれど、暑いのは暑い。
「夏と冬の気温差がありすぎる……」
宿泊客を迎える準備を中断して、雪乃は扇風機を一人占めしていた。朝のうちは冷房はつけないようにしていて、あちこち掃除をすれば汗だくだ。
「なにしてんの、だらしない」
「だって、暑いんやもん……アイス食~べよぉ~っと」
その前に掃除しなさい、と律子に言われ、宿泊客たちが使う部屋にとりあえず掃除機をかけた。コンセントを抜いて片付けて、冷蔵庫へ向かう。
「涼しい……冷蔵庫の中に入りたい」
「凍れ館、行っておいで」
「……行くまでに汗かくわ」
流氷凍れ館は、メルヘン交差点のすぐ近くにある氷のテーマパークだ。雪乃は引っ越してくる前の夏に行ったことがあって、暑いのを忘れて遊んだ記憶がある。マイナス十五度の世界は涼しいけれど、残念ながら、出た瞬間に真夏にただいま、だ。
夕方、宿泊客の到着を待っていると、宅急便が届いた。
宿泊客が荷物だけを送ってくることはよくあるけれど、今日は珍しく雪乃宛だった。
「何やろ? こんな重たい荷物……晴也さん?」
宛先は雪乃だったけれど、雪乃は母親と一緒に段ボール箱を開けた。
新聞紙で包まれた中に入っていたのは──。
「わあ、野菜、いっぱい!」
トマト、きゅうり、なすび、トウモロコシ、じゃがいも、それから……。
川井家の畑で採れたと思われる野菜が、たくさん入っていた。雪乃が訪ねたときに何を植えているのか聞いたので、育った報告を兼ねて分けてくれたのだろうか。
一緒に入っていた手紙は、晴也の直筆だった。
『ご無沙汰しています。冬には大変お世話になり、春には和歌山まで来ていただいて、ありがとうございました。うちで採れた野菜をお送りします。NORTH CANALでの食事にどうぞお使いください。来年も二月にお世話になろうと思っています。また改めて連絡します』
来年も、という言葉に、雪乃は思わず顔を緩めた。
晴也にまた会えることが嬉しい。もちろん、彼に婚約者がいることはわかっている。一人ではなく、二人で来る可能性もある。
「雪乃、晴也君にお礼のメールしといて」
「はーい」
雪乃が彼に連絡するのは、NORTH CANALのパソコンからのメールだけだった。彼には会いにいったけれど、連絡先は交換していない。もちろん、仲良くなった常連客以外は、誰の情報もスマートフォンには登録していない。両親はパソコンに弱いので、インターネットを通しての予約受付は雪乃の仕事になっている。
さっそく雪乃はパソコンを立ち上げ、晴也にメールを打った。
野菜のお礼。和歌山でのお礼。また来てくれることへのお礼。
(お礼ばっかり……)
長くなり過ぎないように注意して、読み返してから送信。
晴也もパソコンをつけていたのか、メールを転送しているのか、返事がすぐに届いた。
『傷がないのを選んだけど、もし傷んでるのがあれば、遠慮なく捨ててください……』
今のところ、傷んでいるものはなかったけれど。
足が早い野菜から順番に、カレーの中に入れることになった。
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※凍れ館は平成26年に閉館したようです。
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