6人が本棚に入れています
本棚に追加
3-3 湯気の中で
モモたち四人が到着したのは、二月に入ってすぐの頃だった。今までは荷物が多かったけれど、今年は少なく見えた。
「そうなの。今年は、あまり動けないから」
言いながらモモは、ノリアキを見て笑った。
「七月くらいかな。赤ちゃん」
「わぁー、やったぁっ、とっ!」
雪乃は思わずモモに抱きつきそうになって、お腹に赤ちゃんがいるの思い出して慌てて手を引いた。近くにいたアカネに引っ張られて、セーフ! と汗をかいた。
「来年は来れるかわからないから、今のうちに見ておこうと思って。雪あかりの路。あと、お寿司!」
今年のスケジュールを話しながら、去年のことを思い出す四人。雪あかりの路はギリギリ見れなくて、お寿司もあまり食べれなかったから、今年はそれがメインだと意気込んでいる。
「でもジローは寿司よりバナナだよな」
「だから俺はサルじゃねぇー!」
披露宴ではバナナ料理を出す、と言っていたノリアキ。もちろん、みんなと同じ料理を出したけれど、バナナを使ったデザートが実際あったらしい。
四人は晩ご飯を決めていなかったので、去年のように鍋を囲むことになった。
去年は父親の帰宅を待たなかったけれど、今年は休日だったので準備から一緒だった。と言っても、台所には女性四人が立ったので、部屋の隅でぼそぼそと『彼氏とは』『夫とは』『父とは』など話していた男三人。
「そういえば、あの人の名前、何ていったっけ?」
鍋から豆腐とお肉を取りながら、アカネが話題を変えた。変えたけれど彼女の目線の先は、美味しそうなお肉だ。
「去年、ひとりで泊まりに来てた人。今年も来るのかな」
「お? あか姉さん、もしかして狙ってる?」
ジローは飲んでいた缶ビールを置いてアカネに詰め寄った。少々酔っているのだろうか、メンバーの中では一番顔が赤い。
アカネが言っているのは、もちろん晴也のことだろう。
「ジロー、それは無理だ。あの人には姉さんの相手は無理だ」
「ちょっと、それどういう意味よ?」
晴也は大人しいから気の強いアカネに負けてしまう、と言いながら、ジローとノリアキは笑っていた。晴也は、確かにNORTH CANALでは大人しかった──けれど、雪乃が知る限り、お付き合いするにはまったく問題ないと思う。
「違うわよ、そんなんじゃないし、それに私はシブい男が好みなの」
ということは老けてきた証拠だな、と笑うジローとノリアキに、アカネは反論をしていた。モモは言いあいには参加せず、お腹の子供のことを雪乃の両親に話していた。
「モモちゃんは大丈夫やろうけど、ノリ君……ちゃんとパパになるんかな……」
「たぶん、大丈夫です……。産まれたらメロメロになると思う、って言ってました」
ジローとノリアキ、アカネの会話は、いつの間にか会社でのことに変わっていた。今度の企画が何だとか、どこの部署の誰部長が嫌だとか、高松一家がわかる話題ではない。
「それよりユキちゃん、あの人……来るの?」
「うん。来るよ。いつやったかな、確か、明後日から二泊やったかな」
「またひとりで?」
「うん……」
雪乃が深刻な顔をしたからか、熱い討論をしていた三人もそれをやめて雪乃に注目した。晴也に会いに行った時のことは両親には話したけれど、彼が一人で小樽に来た理由の雪乃の勘は、まだ誰にも話していない。
「ちょっと気になることがあって」
「なに、また凍えて帰ってくる可能性でもあるの?」
ジローは、まさか、と思い笑いながら聞いたけれど。
「ないとは、言えない」
鍋から上る湯気とは逆に、雪乃の言葉は重く響いた。
最初のコメントを投稿しよう!