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1-4 ひとり旅の青年
旭山動物園に出かけていた四人は、夕方にNORTH CANALに戻ってきた。駅で言っていた通り雪乃にお土産を買ってくれていて、もちろん、両親にもあった。
「シロフクロウがかわいかったよー。真っ白なの! 雪と同じくらい、真っ白!」
「そうそう、目と口がなかったら、探せない!」
モモとアカネが写真を撮っているようで、雪乃は見せてもらった。
本当に羽毛が真っ白で、黄色い目と黒いくちばしがなければ、白い雪の中ではわからない。
「あとねぇ、そうそう、ジローにそっくりなのがいたんだよー」
笑いながらカメラを操作するアカネにつられ、モモも「あれね!」と笑った。話を聞いていたジローは、不服そうな顔をした。
アカネが雪乃に見せたのは──。
「ははは! テナガザル!」
「似てるでしょー? 手足の長いのとか!」
「ジローザルだな、よし、おまえ、俺らの披露宴のときはバナナ料理ばっかり出してやるよ!」
「いや、俺、猿じゃねぇし!」
動物園で撮った写真を見て雪乃が笑っている間、母親は時計を見ながら心配そうな顔をしていた。もちろん、父親も一緒に写真を見て笑ってはいるけれど、落ち着かない様子だ。
「夕方には着く、ってメールは来てたけど、もうすぐ六時よ……」
「場所は分かってるんだろう? 地図を載せてるし」
雪乃は最初、両親が何の話をしているのかわからなかったけれど、やがて今日から連泊の男性客のことだとわかった。到着予定時刻を過ぎているのに、彼から何の連絡もないらしい。
「私、見に行こうか? その人の写真あるの?」
「ううん、ない」
近くで彷徨っている旅人らしき人を探そうか、と雪乃が思ったとき、玄関のチャイムが鳴った。それからドアが開く音がして、よく知った声が聞こえた。
「こんばんはー。すみませーん、あ、ユキちゃん、良かった」
「翔子ちゃん……どうしたん?」
雪乃が玄関に顔を出すと、そこにいたのは翔子だった。
一人ではなく、男性と一緒だ。
「あっ、もしかして、えーっと……お母さーん!」
雪乃が呼ぶと間もなく、律子がバタバタと走ってやってきた。朝食のときに見ていた手帳を広げ、何かを探していた。
「えーっとえーっと、川井晴也さん?」
「はい、川井です。すみません、道に迷って遅くなってしまって……」
住宅街で迷っていたときに翔子が通りかかり、事情を聞いて案内したらしい。
晴也は落ち着いた好青年で、年齢はノリアキくらいだろうか。
「それじゃ、私、帰りますね」
翔子が停めていた俥のほうに戻ろうとしたとき、晴也も振り返った。
「ありがとうございました。お代は……」
「良いです良いです、私が勝手にしたことだから」
おやすみなさい、と言いながら遠ざかっていく翔子に晴也は頭を下げ、雪乃は「ありがとう」と叫んだ。NORTH CANALの場所がわからなくて迷ってしまうのは、晴也が初めてではない。
「すみません、分かりにくい場所で」
「いえ、僕もちゃんと調べなくて、暗い時間になってしまって……」
「とりあえず、中にどうぞ」
晴也が靴を脱ぐのを待って、雪乃は簡単に宿の説明をした。
夕食がまだなら一緒に、と提案すると、晴也は済ませてきたと言った。
「もしかして、作ってくれてますか?」
「いえ、まだです」
それなら良かった、と安心したのか、晴也は少しだけ笑った。
翔子に連れられてNORTH CANALに来てから、晴也の表情は硬いままだった。旅の疲れがあるのだろうか、初めてで緊張しているのだろうか。
「川井さん、長旅でしたか?」
「ええ、まぁ……。小樽にはよく来てたんですが、この辺りは初めてで」
「へぇ。住宅街ですもんねぇ、神社くらいしかないし……。いま、他のお客さんたちリビングにいますけど……どうしますか? 挨拶だけでもしますか?」
晴也が本当に疲れているように見えたので気は進まなかったけれど、雪乃は彼をリビングに案内した。
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