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カエルが、跳ねた。カマキリが、威嚇した。
それに気付かず、馬車は進む。
御者も、温厚な馬も、運ばれているオレンジも、細かいことに気遣っている余裕はないのだ。
「グジジジジジ……」
荷台の奥から、黒い液体が流れてくる。
それらは集まり、星団の様に、名前のある集合体へと変わっていく。
欠伸をした後、カエルとカマキリの優美な死骸を、慈雨を注ぐ様に見送った。
"怪異"、その中でも、"地中のお化け"。
別の呼び名もあるのだが、人々はその二つが同じ生命体であることに気が付いていない(かつての、セイスモサウルスとディプロドクスの様に)。
地中のお化けは普段、地中にいる。
正真正銘の黒をしていて、光を通さない。
半世紀前、自称登山家の髭男が、初めて山で遭遇した。
真っ黒な、人間の手首から上が、地中から出ていたのだ。
彼はシャッターを切り、麓の村で写真を見せたが、如何せん彼は"怪しい男"であり、"金を得る仕事をしない男"だったので、それが信憑されることはなかった。
この事件から五年後、魚釣りに出掛けた村の少年が、地中のお化けを発見する。
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