地中のお化け

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 縫い目が重なる感じで、全ての肉片が凝集すると、カエルは何事もなかったかの様に、茂みへと入っていった。  これが、地中のお化けの、人間が介入した自然界での役割である。  黒い右手は、握り潰した生物をさいの目切りにし、断面を即座に縫う。  この縫い目は、記憶媒体であり、対象の引かれる記憶が刻まれている。  肉片が合体することで、肉体は治り、痛い記憶は全て、地中のお化けに回収される。  その痛い記憶を読み込んだ地中のお化けは、荷台の商品を一つ破壊してしまう。  痛い記憶は、壊された商品に転化され、自分は何事もなかったかの様に、荷台からパトロールをするのだ。  「ご苦労様です。ここまで遠かったでしょう。馬車に損傷がございましたら、部品のストックをお持ちいたしますので、お申し付けください」  依頼主の老人は、どう見ても大金持ちだったが、一商人の私に対しても、腰が低かった(これが成功の秘訣なのかもしれない)。  「いえ、及びません。とても太平な旅路でした。これも天の御使が、加護してくださったおかげです」  私は、深々と頭を下げた。  この旅路の全てに敬意を払わなくては……。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加