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「おからって豆腐作るときに出る粕のことだよな? 朝昼晩食べて飽きねーのか?」
僕の苛立ちをを知ってか知らずか。三間は質問を畳みかけてくる。その口調があまりに自然体だったから。完全に毒気を抜かれてしまった。
意図はわからないけど、それを知りたがっていることは本当のようだ。
「それは……、料理で工夫すれば、それなりに。ご飯や小麦粉の代わりにもなりますし。ネットを見れば、色んな調理法が載っていますよ」
三間は顎に指をあて、ふむ、と唸った。
「ネットに書いてあっても、俺は料理しねーからな」
彼女に作ってもらえば、と言おうとし、言葉を飲み込む。三間の彼女は人気女優の中島佑美だった。料理をする時間なんてないだろう。
「監督から、撮影までに筋肉を落としてほしいって言われてるんだが。つけるよりも落とすほうが難しい」
僕は、はぁ、と曖昧な相槌を返した。
飲み会の帰りに二次会には行かずジムに来たのは、僕とは真逆の理由ということか。
確かに戦時中というのは僕の高校時代以上に食べる物に困っていた時代なので、三間のように筋骨たくましすぎる男がいることに違和感を感じる人もいるかもしれない。
「年末から時間があるときには有酸素運動をしているが、今のところ効果が見られない」
「はぁ」
三間が一方的に話を続け、僕は聞き役に徹する。
「食事を減らすべきなんだろうが、腹が減るとイライラするから、演技に影響が出ても困る」
「はぁ」
「おからで痩せられるって言うんなら、それを試してみたい」
「はぁ」
「だから、俺に飯を作ってくれないか?」
「はぁ。…………って、え……? えええ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、慌てて口に手を当てた。きょろきょろと辺りを見回す。幸い近くには人がいないので、大丈夫そうだ。
「飯を作ってくれるんなら、材料費とここの会費は俺が出す。俺の家はここから近いから、演技リハが終わった後、ここでトレーニングしてうちに来ればいい。飯食ったら家まで車で送って行く」
「いや、でも……。そういうわけには……」
「他にいい方法が思いつかないから、協力してくれると助かる。なんなら飯食った後、台本読みに付き合ってもいい。人助けと思って、お願いします」
深々と頭を下げられ、僕は一層焦った。
「あ、あの、頭を上げてください!」
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