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「二人って、もしかして、三間君のところに中島佑美が来てたってこと?」
僕の背後に立ち、色素の薄いサラサラの髪をワックスで無造作にセットしながら、ヒロさんが鼻白んだ顔をする。
本人達は肯定も否定もしていないけど、三間と中島が付き合っていることは、週刊誌で何度もスクープされているから、「二人」と聞いてすぐに彼女のことだとピンと来たのだろう。
「わざわざ楽屋に呼びつけてマーキングなんて、三間君、クールに見えて意外と独占欲強いのねー」
「マーキング……ですか?」
やめておけばいいものを。
言葉の意味がわからず、ついオウム返しで訊ねてしまった。
ヒロさんが、うふ、と意味深な笑みを返す。
「だって、いくらチョーカーしてても、佑美ちゃんを狙ってるアルファは腐るほどいるでしょう? 自分の匂いをつけて他のアルファに付け入る隙を与えないようにしてるのよ」
彼女から微かに三間のフェロモンの香りがしたのは、そういうことだったのか……。
また、ツキンと胸に刺すような痛みを覚えて。
だから何故、あの人のことで僕が傷ついたみたいになってんだ! と、自分自身を殴りたくなった。
「あーあ。あたしがオメガだったら、ヒートトラップ仕掛けて三間君をものにするのにぃ!」
地団太を踏むように悔しがるヒロさんに、思わず、ふっ、と苦笑が洩れる。
「あ、ちょっと、夏希君、今あたしのこと小馬鹿にしたわね? 自分が勝ち組のベータだからって!」
「ち、ちがいます!」
せっかくセットした髪をぐちゃぐちゃにしそうな剣幕のヒロさんに、慌てて言い訳をする。
「今のは恋する乙女なヒロさんが可愛かったから、つい笑ってしまっただけですよ」
「あら、そうお? じゃあ、三間君の上半身裸の写真で許してあ・げ・る♡」
鏡越しにウィンクされた。
撮影の合間に隠し撮りしろと言っているのだろうか。
それはあまりにも、代償のハードルが高すぎるのでは……。
心の中で、えーーー!? と雄叫びを上げたとき。ノックの音がし、ドアが開いた。
「柿谷さん、そろそろスタンバイお願いします」
顔だけ覗かせたADさんに、白木さんが「すぐ行きます」と返事をする。
助かった、と思い、ヒロさんに礼を言って楽屋を出た。
ヒロさんの言葉に思わず苦笑を洩らしたのは、彼のことを小馬鹿にしたからではない。たとえオメガでも、ヒートトラップで三間をものにすることはできないことを、身をもって知っているからだ。
もし、あれが現実に起こった出来事なら、の話だけど。
何の証拠もないけれど。
おそらく僕は、この二年に限って言えば、一度通り過ぎたはずの月日をもう一度辿っている。
自分が死んだと思っていたのが、何故か目が覚めたら二年前へと時間が巻き戻っていたのだ。
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