ふたたび、呼び出し2(*)

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ふたたび、呼び出し2(*)

 その声は、冷徹と周囲に評されるこの男に似つかわしくなく、なんとなく調子が狂う。  忠頼は、己の眉間の辺りを揉みながら、息を吐く。 「怪我をしているなら、もう下がっても良い。だが、それは持っていけ。何かの時に、役に立つやもしれん」 ーーまだ言うのか。  俺は再び、頭を下げながら言う。 「恐れながら、左衛門殿。何の由もないのに、これを受け取ることは出来かねます」 「強情だな」 忠頼はぽつりと呟く。 「では、由を作れば良いのか」  顔を伏せていた忠頼が、目を上げた。その目が真っ直ぐに俺を射抜く。  俺は、ぞくりとした。 「あの、左衛門殿――」  忠頼の眼光の鋭さに、俺の心臓が早鐘を打つように鳴る。  蝋燭の灯が揺れる。遠くで獣が吠える声が一つ、二つ聴こえた。俺は座ったまま、思わず後ずさって、その目から逃げようとした。  しかし、一呼吸遅かった。忠頼は俺の右手を捉えると、身体を俺の方へ滑り込ませる。  そして、そのまま、俺の手の甲に、甲に唇を落とした。  俺は頭が真っ白になった。と同時に、ぶわっと体中が沸騰したかのような感覚におちいる。  忠頼は、俺の左手も取った。  忠頼が唇を落とす。指の付け根に。そして指の先端。掌にも。 「――っ」  忠頼は、俺の手を強く掴んでいるわけじゃない。むしろ、柔く巻き付く蔓のように、自然に俺の手首を支えている。 ――くそ、何でだ。  俺は声を押し殺し、体を捩った。全身を襲うこの快楽から逃げようとするが、どうにも上手く行かない。  胸がざわざわとする。息が上がる。体が、こんなにも反応することに、心が付いていっていなかった。  俺は取り敢えずこの場を凌ぐことにした。 「分かりました、証を、受け取ります」 「ああ。そうしてくれ」  忠頼が、あっさりそう言ったので、俺は、ほっとした。これでやっと、この状況から解放される。  だが、忠頼は俺の右手をすいと持ち上げると、俺を押し倒した。 「左衛門殿……?」  目の前に覆いかぶさった忠頼に、俺は呆けたような声で尋ねる。  忠頼は、ひとつも表情を崩さずに言う。 「証の文を受け取ったところで、俺の目がなくなったら、すぐさま竈の火にでもくべるつもりだろう?」  俺はぎくりとして、口をつぐむ。忠頼は俺の体に、ゆっくり手を這わせた。体が、俺の意思とは関係なく、びくりと跳ねる。忠頼は、あくまで淡々と話す。 「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」  滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。 ――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。 「……っ?!」  俺は、はっとして下を見た。忠頼の唇はいま、一番敏感なところを咥えこもうとしている。  俺は動転した。  普段はそういうことを考えない、俺でさえ、身分が、とか、恐れ多い、という気持ちで、身がすくんだ。必死に快楽を押し殺そうとしながらも、自然と呼吸が早くなる。 「あっ……あ……?!」 体中の血が沸騰し、声が漏れる。同時に傷口がずくりと痛んだ。  俺は忠頼の頭をそこから放そうとしたが、その舌づかいに翻弄され、言葉さえ満足に出てこない。俺は言葉の代わりに、忠頼の頭に手を伸ばし、行為を止めようとするが、その手もすぐに抑えられる。  ふいに、忠頼が口を離した。俺はすぐに抗議の声を上げる。 「わかった、もういい、もういいですから、ここまでしないで下さい」 「どうするかは、俺が決める。嫌なら、逃げろと言ったろう」  忠頼はそれだけサラリと言うと、俺が言葉を返す前に、再び俺のものを総て、咥内へ入れてしまう。 「――っ」  忠頼は、俺のものを、優しく吸い上げるようにして、上下させる。  俺は全身を駆け巡る快楽の波に攫われた。ずっと身体を苛んでいた、殴られた痛みさえ、消えていくようだ。  俺は我を忘れて、ただ喘いだ。  言葉も、思考も、痛みも、切なさも、全部混ざった感覚。  もう、いいや、と俺は思った。 ――これは、俺じゃない。だって、こんな感覚は、知らない。  その瞬間、快楽が頂点を突いて、俺は達した。ぼんやりとした意識の中、忠頼が、俺の腹に口づけをする感触を感じた。跡をつけているのかもしれない、と俺は、頭の隅で思った。  これが証の代わりだ、という忠頼の声を、俺は、最後に聞いた。
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