赤ちゃんカート

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 まだ自分では歩けない月齢の娘と公園に行ったら、年少さんくらいの子達を数人入れた、移動用のカートがやってきた。  大きさ的には年少さんくらいだけれど、聞いた話では、あの年頃はまだまだ赤ちゃん。すくに疲れて歩けなくなったり、一瞬目を離しただけで駆け出したりするらしいから、カートに全員乗せての移動は安全でいいそうだ。  公園で遊ぶ子達を眺め、うちの子も、いずれあんなふうになるのだろうと夢想する。やがて、あちらが帰り支度を始めたので、私も娘と家に帰ることにした。  その時ふと思ったのは、子供の数が来た時と違うような気がする、だった。  確か六人だった筈だけど、今数えると七人いる。  でも、公園には、あの子達とうちの親子しかいなかったし、先生達も騒ぐ様子はない。  きっと私の気のせいだろう。そう思いながら帰りかけた時、誰かの強い視線を感じた。  振り向いた先に存在していたのは、今から園に帰ろうとしている先生と子供達。その、赤ちゃんのカートの中の子が一人、じっとこちらを見ている。そして、まるで大人が『内緒だよ』とするように、口の前に人差し指を立てた。  その子、違う。園の子じゃない。多分、生きた人間とも…。  そう思うのに声が出ない、体も動かない。  引率の先生が前後に立ち、カートはゆっくりと園に戻っていく。  あれが園に戻ったら…。  小さな子の親として、どうしてもあれを止めたいのに、動けぬまま立ち尽くすしかできない。  ダメ。あなたはみんなと一緒に行ったらダメ。ついて行ってはダメ。…ダメ…。 赤ちゃんカート…完      
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