グレーディング

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 私の友人にちょっと変わった趣味を持っている男がおりましてね。どういう趣味かというと、神社巡りなんです。神社巡りは今時そんなに珍しくもないだろうと思われるかもしれませんが、彼は、ちょっと特殊な巡り方をするんです。  どう特殊かというと、所謂丑の刻参りってあるじゃないですか。そう、夜中に神社の境内の木に呪いたい相手の名前をつけた藁人形を縛り付けて、五寸釘を打ち込むってアレですよ。頭に五徳を被って蝋燭を灯してとか、胸に鏡をつるしてとか、ディテールはバージョンによって色々ありますけど、まあ、基本的なやり方は大体一緒ですよね。で、彼が行くのは、そういう丑の刻参りで有名な神社がメインなんです。まあ、そういう風評がある神社はそう多くはないですが、そこの木に縛り付けられている藁人形を見つけて、そこに打ち込まれている五寸釘を抜いて帰って来るわけです。ねえ、変わってるでしょう?  なんでそういうことをするのかと言うと、彼曰くこういう理由だそうです。そもそも神社に生えている木は、ご神木であって、尊いものだ。本来、人間がみだりに手を触れるのも許されない。それを傷つけるなんて言語道断の振る舞いである。ましてや、そのご神木に釘を打ち込むなんて、とんでもない罰当たりだ。だから、自分はその釘を抜いて回ることにしたのだ、ということだそうです。  私もそういう考え方は理解できるんです。確かにそこに生えている木はご神木なわけだから、それに釘を打ち込む、それも単に自分個人の恨みつらみや呪いの念を込めながら打ち込むなんて、罰当たりな行為だと思います。  ただ、彼の場合、ちょっと変なのは、釘を抜いてくるのはいいんですが、その釘をどうするかと言うと、とっておくんですよね。そんな気味の悪いもの、手元に置いておきたくない筈ですから、普通ならすぐに捨ててしまうんでしょうけど、彼は何故かそれをとっておくんです。ところが、永遠に持っているのかというと、そういうわけでもなく、そうですね、2,3か月くらいの間、手元に置いておく。その後で、捨ててしまうものもある。一方で、ずっと、何か月も何年も、とっておいてるものもある、そういう感じなんだそうです。  何故でしょう?よくわからないですよね。ええ、そりゃそうですよね、へへ。実はこういうことなんだそうです。  彼は、釘を抜いた後、それが打ち付けられていた藁人形、つまりはそこで呪われた人の運命を、手を尽くして調べるのです。多くの場合、名前を書いた札が藁人形に一緒に張り付けられていますから、とりあえず名前くらいは分かる。それを手がかりに、じっくりと、丹念に、根気強く、調べていくのです。そして、各々のその後の事情を把握し、もし呪われた人が特に何事もなく生きているのなら、そこで使われた釘は捨ててしまう。一方、実際に不運に見舞われたりしたら、その釘は保存しておく。つまり、呪いに使われた釘の”力”みたいなものを、呪いの結果に応じてグレーディングするんですね。特に呪われた人が死んでしまったような場合は、”一級品”として、ずっと大事に保存する。そういう風に扱っているわけです。  ねえ、ご神木を大事にするみたいなことを言っていながら、要は呪物のコレクションをしているに過ぎないわけですよ。なんだかなあ、っていう感じですよねえ。  というわけで、これがそういう”実績”のある釘の一本なんです。三日前に彼から譲ってもらいました。今日のお約束に間に合って良かったです。どうです。この禍々しい雰囲気。いいでしょう?  先日、お電話を頂いた時のお話しでは、何か強烈な力をもった物が欲しいというお話しでしたのでね、まあ、大体察しがつきました、へへ。ええ、そりゃわかりますよ。こうやって長年呪物というものを扱わせて頂いていると、大体お客様のご事情はすぐにわかるようになるんです。かなり強い恨みをお持ちのようですね。ええ、パワーは保証しますよ。私自ら彼の所に行って、コレクションを見せてもらって、その中から、一番強そうなものを見繕ってもらったんです。だから、少々お値段は、はりますがね、へへへ。   [了]
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