十三

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十三

十三 (愛子)  昨夜降り積もった雪は、朝日を浴びてだいぶ溶け落ちてしまった。  父と二人分の洗濯物を干し終えると、愛子は冷たくなった手を擦りあわせながら、玄関の戸を開けた。  その時、背後から、 「愛子……」  聞きなれた声が聞こえた。 「章吾さん、どうしたの?」  愛子が振り返って尋ねると、 「ちょっと、話したいことがあってね」  章吾はなぜか目をそらしたままで言った。 「そう……」  愛子は、父のいるリビングではなく、章吾を和室に通した。  ストーブに火を入れると、 「すぐに暖かくなると思うわ。今熱いコーヒー淹れるわね。ブラックでしょ。濃い目の」 「ああ」 「ちょっと待ってて」  愛子はキッチンへ向かうと、手際よくコーヒーの用意を始めた。   「話ってなに?」  テーブルに向かい合わせになる形で腰を降ろすと、章吾は俯いたまま、 「君に、謝らなければならない」  そう言って、ゆっくりと顔を上げた。 「謝る?」 「……君を裏切ってしまった」  その告白に、愛子は、とうとうこの時がやってきてしまったのだという諦めと軽い失望を同時に感じていた……。  こうなることは、時間の問題だと思っていた。 「美羽……なのね?」  問うと、章吾は黙って首を縦に振った。 「そう……なんとなく……わかってた」  愛子は、しばらく黙り込み、気持ちの整理をすると、 「でも、いつから、そんな風に気持ちが変わってしまったの?」  そう問い掛けた。章吾は再び俯き、なにか考えている様子だったが、やがて顔を上げた。 「美羽が、おれを見る目に、ずっと苦しんできた。応えたくても、応えてやれない。でも、山下くんと付き合い出して、なんだかずっと、胸の中がもやもやしてさ。いけないことなのに、段々自分の感情が抑えきれなくて……。最低だとわかっていても、止められなかった」 「そう……」  愛子には、章吾を責める気持ちは起こらなかった。  これで自分も一歩踏み出せる。ただそう思えた……。
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