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三
三
(愛子)
凛と湊斗を寝かしつけ、起こさないようにそうっと部屋を出た愛子は、キッチンに立ち寄り、水を一口飲み、乾いた喉を潤してからリビングへ向かった。
美羽は風呂へ行っているようで、章吾がソファにもたれかかりテレビを観ていた。
章吾は愛子が近付いてきたことに気付くと、
「お疲れ様、二人はもう寝た?」
と尋ねて来た。
「ええ。やっと寝たわ。でも二人は大変ね。あちこち動き回って。美羽に手伝ってもらえばよかったわ」
そう言うと、
「美羽は風呂へ行ったよ。今日は一日中、凛と湊斗の世話に追われていたから、今やっとゆっくり出来てるんじゃないかな」
「そうね……美羽は仕事でも一日中、子どもたちの世話をしてるんですもんね。こんな時くらいはゆっくりしたいわよね」
そう言うと、風呂上りの美羽がやって来て、
「私は平気よ。凛と湊斗は本当に可愛いし」
そう言って、章吾の向かいのソファに腰を降ろした。
愛子がキッチンへ戻り、コップに水を注ぎ、
「はい、のど乾いたでしょ」
手渡すと、
「ありがとう。さすがお母さん、やっぱり気が利くね」
美羽はコップを受け取るや、一気に飲み干した。
姉の由羽は二十代前半で結婚したが、美羽はいっこうにその気配はない。
あの時……美羽に、章吾との結婚を告げた時の表情を今でも忘れない。
美羽は決して喜びはせず、絶望と、困惑が入り混じったような顔をしていた。
そうして一緒に暮らすうちに、美羽の感情は年を経ても変わらないことに愛子は気付いてしまった。
年月とともに薄れていくものだと思っていたが、違っていた。
そうなると、娘の顔を見ているのも辛く、ともに暮らすことも辛くなり、母の死をきっかけに、父と暮らすことになったが、それはいい機会だと思っていた。
章吾は、美羽が高校を卒業する頃から、愛子と夜をともにしなくなった。
以来ずっと、章吾との間に性生活はない。
章吾は決して自分の気持ちを表に表さないが、今のこの関係をどう感じているのか、尋ねたところで答えてはくれないとわかっていた。
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