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四 (美羽)  翌日の夕方になり、美羽が夕飯のしたくをしているところへ姉が帰って来た。  母は、祖父のこともあり一泊が限度だと、朝方には帰ってしまった。 「はい、お土産」  由羽はクッキーの箱が入った紙袋を美羽に手渡し、子どもたちのもとへ駆け寄って行った。 「凛、湊斗おりこうにしてた?」 「あ、ママー」  凛は母親の姿を見るや、飛んで行って抱き付いた。  湊斗もよちよちと近寄って行く。  美羽が微笑ましく見ていると、 「二人にお土産があるのよ」  と、由羽は紙袋から小さなぬいぐるみを二つ取り出した。  二人は喜んで受け取り、由羽は堪らない様子で凛と湊斗を交互にハグした。  凜が、この二日の間にあったことをたどたどしく説明し、姉がうんうんと頷きながら聞いていると、  それまで二人の面倒をみていた章吾が、 「二人とも、お母さんが帰って来て良かったな」  しみじみとした口調で言い、 「由羽、伊豆はどうだった?」  と尋ねた。 「良かったよ。お陰様で楽しんでこれた。本当にありがとう」 「それは良かったな。由羽はひとりで子育てに奮闘してるんだし、こうして息抜きも必要だよ。いつでも頼ってくるといい」 「うん、助かる」  由羽はそう言うと、美羽のほうを向き、 「美羽、なにかいい匂いがするけど、今日はなに?」  と尋ねた。 「え? ああ、今日はオムライス。凛ちゃんのリクエストなの」 「オムライス? いいね、手伝おうか」  由羽は立ち上がり、台所へやって来た。    皆でオムライスを食べた後、章吾が子どもたちを風呂に入れていると、子どもたちの着替えを用意しながら由羽が、 「ねえ、美羽、あんたはどうするの?」  と尋ねて来た。 「どうするって? なにが?」  ソファの背から身を起こすと、 「まだお父さんのこと、諦められないの?」  由羽はすでに、美羽の気持ちを見抜いていたのだ。  一応否定はしていたが、姉にはわかってしまうようで、もうそうだと決めつけられている。 「だから私、何度も言うけど、お父さんのこと、なんとも思ってないって。父親以外のなにものでもないんだから」  そう言うと、 「はいはい、でもね、美羽って気持ちが顔に出やすいから、ばればれなんだって。多分、お母さんは気付いてるんじゃないかな。それに、お父さんだって……」 「え?」 「気付いてるかもね」 「うそ」 「まあ、気付いたってなにも出来ないけどね。お父さんには、お母さんがいるんだし」 「…………」 「美羽も大変だね」 「私、そんなんじゃないから」 「もう諦めて、早くいい人見つけたら?」 「え?」 「美羽って、今まで誰とも付き合ったことないでしょ? 世の中にはいろんな人がいるんだから、もっと視野を広げて、探してみたら? 素敵な人が見つかるかもよ」  昔から恋人をとっかえひっかえしていた由羽は、妊娠を機に二十代前半で結婚し、湊斗が生まれてすぐに、夫との価値観のずれが元で別れた。  だが由羽は落ち込むこともなく、すぐに新しい彼氏を見つけ、今回のように旅行などを楽しんでいる。  一方で美羽は、章吾以外に愛すべき人など現れず、ずっと片想いのままだ。  だが、これではいけないということは、頭では理解していた。
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