16人が本棚に入れています
本棚に追加
六
六
章吾にラインを送ると、ゆっくりしておいでと返事があった。
保育園にほど近いファミリーレストランは、平日でも家族連れがちらほら見られた。
傍目には陽生と美羽、莉央の三人はどのような関係にうつるのだろうと、ふと思いつつ、美羽は莉央の向かいの席に座った。陽生は莉央の隣の通路側の席を選んだ。
莉央は宣言通り、お子様パンケーキセットを注文し、陽生はハンバーグセット、美羽はパスタを頼んだ。
料理が運ばれてくるのを待つ間、美羽は口を開いた。
「あのさっき、父が家で待ってるって言いましたけど、その父って、山下さんの身近にいる人物なんですよ」
「え? 身近にいる? 坂上……え? もしかしてあの?」
「そう、坂上は私の父です」
「苗字が同じだけど、まさかって思ってました。え? あの坂上先生のお嬢さんなんですか?」
「ええ、義理の父ですが」
「義理の?」
「私が十五の時、母が再婚したんです」
「そうでしたか。知りませんでした。坂上先生は滅多に私生活のことについてお話にならないので、でもまさか、坂上先生にこんなに素敵なお嬢さんがいらしたなんて、驚きです」
「素敵なんて、とんでもないです。不肖な娘ですが、父は本当の父親のように育ててくれました。私の上に姉がいて、子どもが二人いるんですが、父は三十代でおじいちゃんになったんです」
「そうですか、まだお若いですもんね、坂上先生」
美羽が頷くと、今度は陽生のほうから尋ねて来た。
「ところで、坂上先生は、下のお名前はなんておっしゃるんですか?」
「私ですか? 私は、美羽と言います。美しい羽と書いて、美羽」
「そうですか。素敵な名前ですね」
「あ、ありがとうございます。山下さんは、確か……」
「あ、陽生って言います。陽気に生きるって書きます。そのまんまの性格だってよく言われますが」
美羽は微笑んで、
「山下さんこそ、素敵なお名前ですね」
そう言うと、莉央が、
「ねえ、りおは、りおにもいって」
陽生のそでを引っ張り、陽生は莉央の頭を撫でながら、
「莉央もいい名前だよな。かわいいかわいい」
そう言われると、莉央は満面の笑みで応えた。
陽生はマンションまで送ってくれ、自宅に着いた時には、九時を回っていた。
リビングを覗くが章吾の姿はなく、もう寝てしまったのだろうかと思っていると、
「お帰り、美羽」
風呂上がりの章吾が、半裸にバスタオルを右肩に掛けた格好で現れた。
美羽がドキッとしていると、
「ゆっくりしてきたかい?」
尋ねられ、
「うん。ココズで食べて来た」
「そうか」
美羽が、陽生も一緒だったと言うと、
「ああ、山下先生か、彼は生徒から人気のある、いい教師だよ」
思い浮かべている様子でそう言った。
章吾は数学だが、陽生は体育教師だと言っており、タイプ的に陽生と章吾は正反対だと思った。どちらも魅力的だが、もし章吾とい人間を知らなければ、なんのためらいもなく陽生に好意を寄せていただろうと思えた。
最初のコメントを投稿しよう!