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六  章吾にラインを送ると、ゆっくりしておいでと返事があった。  保育園にほど近いファミリーレストランは、平日でも家族連れがちらほら見られた。  傍目には陽生と美羽、莉央の三人はどのような関係にうつるのだろうと、ふと思いつつ、美羽は莉央の向かいの席に座った。陽生は莉央の隣の通路側の席を選んだ。  莉央は宣言通り、お子様パンケーキセットを注文し、陽生はハンバーグセット、美羽はパスタを頼んだ。  料理が運ばれてくるのを待つ間、美羽は口を開いた。 「あのさっき、父が家で待ってるって言いましたけど、その父って、山下さんの身近にいる人物なんですよ」  「え? 身近にいる? 坂上……え? もしかしてあの?」 「そう、坂上は私の父です」 「苗字が同じだけど、まさかって思ってました。え? あの坂上先生のお嬢さんなんですか?」 「ええ、義理の父ですが」 「義理の?」 「私が十五の時、母が再婚したんです」 「そうでしたか。知りませんでした。坂上先生は滅多に私生活のことについてお話にならないので、でもまさか、坂上先生にこんなに素敵なお嬢さんがいらしたなんて、驚きです」 「素敵なんて、とんでもないです。不肖な娘ですが、父は本当の父親のように育ててくれました。私の上に姉がいて、子どもが二人いるんですが、父は三十代でおじいちゃんになったんです」 「そうですか、まだお若いですもんね、坂上先生」  美羽が頷くと、今度は陽生のほうから尋ねて来た。 「ところで、坂上先生は、下のお名前はなんておっしゃるんですか?」 「私ですか? 私は、美羽と言います。美しい羽と書いて、美羽」 「そうですか。素敵な名前ですね」 「あ、ありがとうございます。山下さんは、確か……」 「あ、陽生って言います。陽気に生きるって書きます。そのまんまの性格だってよく言われますが」  美羽は微笑んで、 「山下さんこそ、素敵なお名前ですね」  そう言うと、莉央が、 「ねえ、りおは、りおにもいって」  陽生のそでを引っ張り、陽生は莉央の頭を撫でながら、 「莉央もいい名前だよな。かわいいかわいい」  そう言われると、莉央は満面の笑みで応えた。  陽生はマンションまで送ってくれ、自宅に着いた時には、九時を回っていた。  リビングを覗くが章吾の姿はなく、もう寝てしまったのだろうかと思っていると、 「お帰り、美羽」  風呂上がりの章吾が、半裸にバスタオルを右肩に掛けた格好で現れた。  美羽がドキッとしていると、 「ゆっくりしてきたかい?」  尋ねられ、 「うん。ココズで食べて来た」 「そうか」  美羽が、陽生も一緒だったと言うと、 「ああ、山下先生か、彼は生徒から人気のある、いい教師だよ」  思い浮かべている様子でそう言った。  章吾は数学だが、陽生は体育教師だと言っており、タイプ的に陽生と章吾は正反対だと思った。どちらも魅力的だが、もし章吾とい人間を知らなければ、なんのためらいもなく陽生に好意を寄せていただろうと思えた。
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