151人が本棚に入れています
本棚に追加
たすけてあげる
推しが死んだ。
正しくは、私の中で1度死んだ。
それは晩ご飯を外食で済ませた帰宅途中、たまたま目についたネットニュースの見出し、たった2行のこと。
〈 大人気アイドルグループfのメンバー、
奥並 太陽が謹慎処分 〉
目に飛び込んできた瞬間、言葉に表せない闇が視界を覆い眩暈がしてその場にしゃがみ込む私は舗装された綺麗なアスファルトの上で夕食のカレーを吐いた。
その後視界にちらりと映る"ファン"という単語で、全てを察した私はまだ胃に残されていた1300円のカレーを全て吐き出した。
何、あの野郎、ファンに手を出したって?
仕事をする上で避けては通れない女優やアナウンサーが相手ではなく、まさかの私と同じ一般人?
「……おぇ……」
いや、私と同じは言い過ぎたな。
相手の女と私の間には明確な差があって、その溝はマリアナ海溝より深く深く、それはもう一般人なんて言葉では片付けられない程"そちら側"の人間なのだ。
ならばせめて遊びなどではなく熱愛であれとネットニュースの一文字まで取りこぼさぬよう食い入る私に真っ直ぐ突き刺さる"未成年"やら"飲酒"といった頭の痛くなるワード。
あぁ、もうこいつだめだ、終わったわ。完全に死んだ。社会的に死にました。
このあとのルートはわかってる、海外に飛んで、刺青彫って、よくわからない洋楽もどきを引っ提げて小さなスタジオでライブするんだろ。
そんでそのうち麻薬所持で捕まるところまで見えている私はまた頭痛の酷くなる頭を抱えふらふらと歩き出す。
振り返れば、凹凸のないアスファルトの上で街灯という名のスポットライトを浴びキラキラと輝く吐瀉物はまるで推しのようだった。
「…きったな」
推しが死んだ。
私の中で確実に迎えた死は、胸にずどんと重い鉛を埋め込んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!