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近くでみればみるほど整った顔立ちをしている彼女は、ガーゼに消毒液を染み込ませる私をじっと見つめたまま口を開くことはない。
「…可愛い顔」
ぽろり、溢れた本音は羨望の眼差しに変わり彼女に向かって飛んでいく。
私がこの子ぐらい整った顔立ちをしていれば、推しと会える"一般人"になれたかもしれないな。未成年でもリスクを背負って一緒にお酒を飲んじゃうくらい綺麗なら良かった。
「(なーんて)」
未成年に手を出す大人なんて論外だ、気持ちが悪い。そう思いながらも、自分がその"未成年"であれば喜んで尻尾を振っちゃう自信がある。
そんなわかりやすい矛盾を抱えながらまるで自身の心の傷を洗い流すみたいに彼女の傷口を消毒する私に、これまでずっと無言を貫いていた彼女がついにその声を絞り出した。
「……いたい」
それは少し気怠げで、良くも悪くも印象に残らない声。痛いと言われればその手を止め顔色を窺う私はほんの少しの八つ当たりを込めて再び傷口に消毒液のたっぷり染み込んだガーゼを当てた。
するともう一度「いたいって」と微かに届いた声で我に返ったら、ぱっと明るく笑ってみせる。
「あ、痛い? ていうか話せたんだ」
「……はなせるよ」
眉間に皺を寄せても綺麗すぎる顔がそこにはある。ムカつくくらい黄金比を捉えた顔だ。
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