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「何も話さないから、声出せないのかと思ってた」
「……」
「(また無言かよ)」
生まれながらにして可愛い子はいい。例えば目が合っただけで同性の私ですら魅了されてしまう、瞳から成分が違うのだ。
「……なんであそこにいたの?」
彼女の血でじんわり滲む赤がガーゼを染めていく。ふと口に出した疑問は華やかな見た目をした彼女に不釣り合いな清潔感のないコンビニでの出会いについて。
ゴキブリの巣穴と化していそうな汚らしい地面の上でゆらゆら風に靡くブランドもののスカートは泣いていて、そんな風に扱うくらいなら私が貰いたいくらいだった。
「にんげんってわがままだね」
ふわっと宙に投げられた3度目の声は、やっぱりどこか怠そうだ。力なくだらんと垂れている手足に比例するような温度がこちらまで漂ってくるみたい。
質問に対する応答は別にして、彼女の発した我儘というワードは何故だか私の胸をさっくり突き刺した。推しが生きているだけでいいと言ったその口で不祥事やらかした推しへの批判を吐いた罪悪感。
自分の中の理想をいつの間にか"推し"という存在に押しつけては勝手に失望する、自分勝手な私を彼女の言葉は刺したのだ。
「そうかもね。でもあなたも人間でしょ」
だけどこれは私だけでなく、その辺を歩いてる人全員に当てはまることのはず。もちろんあなたにもね、なんて負け惜しみに近い言い回しで告げた言葉に、彼女は一度ゆっくり瞬きをした。
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