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「は、秦く…」
白く冷たい腕を何度も摩った。そのたび肩からぐらぐらと伝わる振動が嫌な重さを引き連れてくる。
「きゅ、救急車……」
そうだ救急車だ。彼の状況など素人の私に判断できるはずがない。
慌ててバッグからスマホを取り出した。が、手が震えてうまくタップができない。普段ならすんなりと出てくるその番号も、混乱した脳内では全くもって処理ができなかった。
「もぉ、はやく…っ」
動揺は喉にまで影響を与えていて、絞り出した声は震え歯はがちがちと音を鳴らした。ようやく119の3文字をタップできたらあとは通話を開始するだけ──と、その時。
「おかえり、カナミ」
背後で声がした。驚いた私は咄嗟にスマホを床に落とし、大きく上がった肩を持ち上げたまま顔だけそうっと振り向いてみせる。
「スズ、リ……?」
その姿を確認する前に呟いた声はやっぱり震えていて、「うん、そうだよ」と戻ってくる返事にまた違和感。だって応答は完全に私のよく知るスズリなのに、声がまるで、
「秦くん──?」
私の背後に立っていたのは、秦くんだったから。
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